第8話
「……信じられん」
思わず呟いていた。
このメスが使ったのは神聖魔法だ。切り落とした腕を繋げるのではなく、欠損部位を再生したのだ。
「むー、しんじられないんなら、こんろはあしを――」
「信じる! 信じるわ! お前は聖女! OK!?」
「おっけぃ!」
けらけらと笑いながら、メス――聖女は自分の血が付いた衣類や床を【浄化】《綺麗に》していた。残ったのは、まだ切断面から血が滴る腕。
「……たべりゅ?」
「やだよ」
「せーじょのうでれしゅよ? ごりやくあるかも?」
「
「おーくしゃん、かわってましゅれぇ。にんげんたべないんれしゅか?」
「好き好んでは食わない。飢え死に寸前、とかなら話は別だが」
「ふーん……わらしがきいてたおーくしゃんと、ちがいましゅ」
「まぁ、そもそも
「……にんげんなんかより、おーくしゃんのほうがよっぽどいいれしゅ」
そう言って聖女はグラスの水をくいっと煽る。そして目に涙を浮かべて、
「……にんげんなんて……にんげんなんてぇぇぇぇぇ!」
また泣き出した。おかしいな、アレただの水なんだけど。
「えーと、良かったら話、聞くか? ああ、嫌なら別に――」
「きいてくれるんでしゅか!?」
「……おう」
食い気味に言われて、ちょっと早まったかと後悔した。いや、単なる好奇心だったんだが。なんで聖女がこんな森で、男達に襲われそうになっていたのかというのが。
「……えーっと、つまり、なんだ? その【勇者】と【教皇】とやらに
「そうれしゅ! あとおうけのひとも!」
聖女はえぐえぐ泣きながら、酔って呂律が回っていない為理解するのが大変だったが、大体の話は聞けたと思う。
要は聖女に欲情した馬鹿なオス共がやらかしたようだ。んで拒否されて、腹を立てて『俺のモノにならないなら殺してしまえ』と、適当に罪をでっち上げて
……馬鹿すぎない、人類? 下半身でしか物考えてなさ過ぎない? ゴブリンかよ?
あー、でもどうしよう
悩んでいる間も、わんわん泣きじゃくる聖女。流石に少し可哀想になり、頭を撫でてやった。一瞬触れた時にビクリ、と身体を震わせたが、撫でていると不思議そうに俺の顔を見た。
「まぁ、その……大変だったな。お前、頑張ったよ、うん」
そう言うと、聖女は驚いたように目を見開いた。そして、その目からまた大粒の涙がこぼれはじめた――かと思うと、目を閉じてそのまま倒れる様にテーブルに突っ伏して、間もなく寝息を立て始めた。
緊張の糸が切れたのだろうか。無理もないだろう。
「……あれ、これひょっとしてウチに泊めないと駄目な奴?」
今更起こす訳にもいかず、俺は大きなため息を吐いた。
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