第5話

――コイツ聖女と出会ったのは、偶々だ。

 ある日、狩りの帰り道。自宅への近道ショートカットの草むらを突っ切っていると、人間の群れに遭遇した。冒険者と遭遇とか、まぁ良くある話である。

 大体そのまま襲い掛かって来るが、その場合は返り討ち。命乞いしてきた場合は見逃す。わざわざこっちから襲い掛かる事はしない。

 ただ今回の場合は少し様子が違った。複数人で人間のメスを襲っているようであった。

 人が殆ど立ち入る事のないこの魔の森で、この様な犯罪は偶に見かける。都合の悪い者をただ放置していくならまだ良い方。そのまま殺害したり、メスの場合は殺害前に犯したり――住処を勝手に犯行現場にされるのは正直気分が良い物ではない。

 関わりたくないのだが、そういう現場に遭遇すると、大体の人間は混乱して襲い掛かって来る。この時も、オス共が下半身丸出しで武器を持ち立ち向かってきた。武器と下半身を振り回しぶるんぶるんさせて来たのは流石に驚いた。俺もいきなりの事で、ついうっかり持っていた武器を振って――結果、ミンチにしてしまった。正当防衛だ俺は悪くない

 そこでようやく、唖然としている――ミンチ血とか肉片とか塗れのメスが居る事に気付いた。不可抗力だ俺は悪くない

 

「……あー、その、悪かった」


 声をかけると、驚いた様子をそのメスは見せた。


「……話せるんですか?」

「あ? 会話になっているだろ?」


 そう言うと納得したようにメスは頷いて、こう言った。


「私を殺しますか?」

「別に」

「では、犯しますか?」

「何でそんな事せにゃならん」

「貴方……オーク、ですよね?」

「オークを何だと思ってるんだ」


 オークだからって人間絶対殺す、ってわけではないし、人間相手に興奮おっきしない。

 俺の言葉に、メスは少し驚いた様子を見せると頭を下げた。


「大変失礼いたしました。申し訳ありません」

「……別に気にしちゃいない」

「失礼ついでに、お願いがあるのですが」

「何だ?」

「――私を、殺してもらえませんか?」


 口元だけで笑みを作り、メスは言った。


「……別に死ぬ必要ないだろ。このまままっすぐ行けば森から出られる」

「帰る場所なんてありませんから。貴方なら、苦しまず殺してくれると思うので」


 アレみたいに、とミンチになったオス共を見てメスは言う。


「……わかった」

「ありがとうございます」


 メスはそう言って目を閉じた。ゆっくりと俺はメスに近づいて――


「――へ?」


肩に担いだ。


「あ、あの?」

「黙ってろ、舌噛むぞ」


 メスを肩に担いだまま、俺は自分の家へと向かう。

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