第1話

――魔の森、と人が呼ぶ森がある。

 何処までも深く木々が生い茂り、暮らしやすい環境なのか様々な種族の魔物が居ついている。

 力無き人間が入ると魔物の餌食となり、出て来る事は出来ない魔物の巣。故に魔の森と呼ばれている。

 

――そんな魔の森の奥深くを、俺は歩いていた。

 歩く度にずしん、と音が立ち、肩に担いだ棒の先端に吊るした獲物から血が垂れて地面に落ちる。シカ、という動物に似た魔物だ。先程俺が仕留めた奴で、まだピクピクと動いている。

 木々の間を歩いていると、やがて開けた場所へとたどり着く。

 そこには湖があった。鬱蒼とした森の中とは思えぬ、美しい場所だ。俺にとっては見慣れた場所だが。

 近くの木の枝に獲物を吊るし、首を切り血を抜く。今回の得物は3匹。血は血で使える為、落ちる所に口を開けて袋を置く。

 抜けきるまでの間に水を汲むべく、湖に袋を持って近寄る。冷たい水は澄んでおり、反射して覗き込む俺の姿を映す。


 湖に豚を思わせる顔に巨大な身体をした俺――オークの姿が映し出された。


 代わり映えのしない自分の姿に特に何の感情も抱かない。何袋か生活用の水を目いっぱい詰め込み、口を縛ると腰掛ける。振り返るとまだ血抜きは終わっていない。まだかかりそうだ。


 ふと湖に目を向けると、何時の間にやら来客が居た。


 ――全身穢れという物とは無縁のような白さの白馬だった。

 その額から生えている鋭い一角――一角馬ユニコーンである。


 湖に口をつけ水を飲んでいたユニコーンが顔を上げ、オークに気付くとこちらへと向かってくる。


 ――清純なる乙女を守護する聖獣と人間から崇め奉られているユニコーン。

 対してメスであれば襲い、犯し、喰らう穢れの象徴として人間から恐れられているオーク

 相対し、一触即発の空気――


「よう、オークの」

「おう、一角の」


――とはならない。コイツとは顔見知りでそれなりに仲は悪くない、はずだ。


「なんだ暫く見なかったけど元気そうじゃねぇか。いいメスオークとヤリまくりだったか?」

「んないいメスオークなんて簡単にいるわけないだろ」

「違いねぇわ」


 ユニコーンが下衆な顔で下品に笑う。人間がこの顔を見たら卒倒するだろう、とぼんやり考える。


「あー! 俺もどっかに清らかな乙女美人の処女いねぇかなぁー! 俺のこの一角イチモツでひぃひぃ言わせてやるってのによぉ!」


 うん、コイツユニコーンこういう下品な処女厨だ。人間のメスに欲情し、特に処女が好みだとかいう。

 人間共は何故かコイツらユニコーン共を神聖視しているが、理解できん。『処女以外メスじゃねぇ』を公言してるクズだぞ?

 二角馬バイコーンの方が『どの様な過去オスとの経験があろうが穢れていようが非処女だろうがどうでもよい。最後に我の隣を歩むのであれば』と懐が広いと思うのだが、あれか? 人間でいう聖魔法とか使うからか?


「で、マジで最近見なかったけどどうしたよ?」

「まぁ、色々あってな……」

「ふーん……あ、肉か? 俺にも少しくれよ」

「馬が肉食うのかよ」

「そりゃ食うだろ。栄養大事よ?」


『何言ってんだおめぇ?』みたいな顔をされる。正直イラっとするが、まぁ少しならいいか。

「血抜き終わったらな」と言うと「よっしゃぁ! 肉だぁ!」と立ち上がって喜び、一角下半身のイチモツがブルンブルン揺れてた。見せるなんなもん。

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