第8話 報酬うううう♡♡♡♡
スタンピードは終息を迎えた。首魁が何処かへ去ってから事態は動いた。
諸突猛進なモンスターが正気に戻ったのか、蜘蛛の子を散らす様に逃走。何が起こったか分からず、血相を掻いて逃げる姿は今でも印象深い。
首魁が言っていた洗脳が解けたのだろう。
スタンピードを乗り越えた勇敢な戦士たちは歓喜の声を上げ、お互いを称え合い、笑い、涙を流した。
無論俺たちも大腕を振って称え合った。幼馴染四人組、リンスーさんとクインさん。そしていつの間にか復活していた最強三人衆。みんなで喜び合った。
三大ギルドの猛攻な連携と騎士団による迅速かつ丁寧な陣形。負傷した者はすぐさま引き、後ろに構える者へと交代。その見事な波状攻撃、作戦が功を奏したのか、幸いなことに負傷者は居れど誰一人として失う事は無かった。
まぁなんでも、今回は粒ぞろいの有志が集ったおかげで驚異的な速度で解決したらしい。前のスタンピードは知らないが、言われてみれば開戦から二日で決着したし、本当に早かったのだろう。
本営での宴がささやかに行われ、その日は楽しい夜を過ごした。
帝国へと帰路する馬車の中、同じ馬車メンバーで乗り込んだ。緊張の糸がプツリと切れたのか、互いに支え合い眠る四人組、いびきがうるさい三人衆、俺の両隣で眠るクインさんとリンスーさん。余程に疲れていたのだろう。
両腕に二人の頭が付いている。動かすと起きそうなので、警戒役として俺は起きる事となった。まぁ俺は疲れてなかったし、何よりみんな頑張ったんだ。
お疲れ様です。ゆっくり休んでください。
「ッハハ! スゲー!」
ジェット君が歓喜の声を上げた。それもそうだろう。俺も驚きを隠せない。っと言うか、みんな驚いている。
帝国の城下町。その栄えある町に近づくにつれ、何処か騒がしさを覚えていた。何隻か目のこの馬車が厳重な門をくぐり抜けると、大きな大きな歓声が俺たちを包んだ。
「凄いアル! みんな祝いネ!」
「ふふ、頑張ったかいがあったな」
スタンピードを退けた有志とギルドに騎士団を総出で讃えている。
石畳の地上から建物の窓まで人がぎっしりと居て、幸せそうに笑顔を振りまいている。老若男女すべからく。
「ッガッハッハ! 俺たち最強三人衆!」
「よろしくな! よろしく!」
「大活躍だったぜー!」
あんた等手を振ってるけど速攻でダウンしてたじゃん……。
手を振っておるのは三人衆だけじゃない。四人組も女性陣も手を振っている。
「ッハハ」
俺も乗り出して手を振る。なんだかスターになった気分だ。
「あれって噂の筋肉野郎じゃないのか?」
「あのデカい兄ちゃんか! うおおおお!!」
「筋肉! 筋肉! 筋肉!」
一部分のスペースにやけにうるさい集団が居る。どうやら俺に関する噂が広がっている様子だ。いったいどんな噂なのだろうか非常に気になる。
「いいぞー筋肉あんちゃん!」
「モンスターを一網打尽にした噂は広まっているぞー!!」
『筋肉! 筋肉! 筋肉!』
俺に対する熱い筋肉コール。図太い男たちの声援が響き渡る。
「よかたアルなネット。みんなネット応援してるネ」
「えらく人気者じゃないか」
「う、嬉しいですけど、女性が一人も応援してくれてない様子……。ちょっと複雑ですね。ハハ」
恥ずかしさを誤魔化す様に言ったが、嬉しいのは事実だ。この町の人達を守れて本当によかった。
「っよ! ピンクハートォ!!」
「その筋肉で何人の男を抱いたんだー!」
『筋肉! 筋肉! ガチホモ筋肉!!』
ッ!?!?
今聞き捨てならないキーワードが聞こえたんだが!?
「ネ、ネット……お前……!」
「ち、ちち違いますよクインさん!」
全く身に覚えのない大きな噂が広まっている! クインさんが驚愕して俺を見ていた。
「筋肉質の人はそっちも多いと知ってはいたが!」
「まさかネットさん……。すみません。流石の僕もそっちは……」
「ちょ違うから! デタラメだよ! デタラメ!」
ドン引きする二人。俺は必死に弁明するも、二人の心に届かない。
「……がちほもて何アルカ? 私知らないネ」
首をかしげるリンスーさん。どうやら知らない単語の様だ。ならば好都合。純粋なままで居てもらおう。知らなくていい言葉も有ると言うものだ。
「あっ……」
こと既に遅し。クインさんがリンスーさんに耳打ちしている。不思議そうな端麗な顔がみるみる内に怒りの形相へと変わっていく。
一歩、二歩、俺の目の前に立ち止まったと思ったら――
ッパン!
と、乾いた音が鳴った。
俺の頬が
「ネット! 男好きなるヨロシ無い! 女好きなれ!」
「リ、リンスーさん! 俺は男にはそういった目線では見てな――」
ッパン!
また叩かれた。
「
なんかメッチャ怒ってる。何言ってるのか分からないけどメッチャ怒ってる! 母国語のラッシュ! キレると母国語言っちゃうタイプの人か!
知らんけど!!
「あの、なんかごめんなさい! 男好きじゃ無いで――」
ッパン!
「ネット女好きカ!」
「好きです女性好きですはい好きです――」
ッパン!
「あの――」
ッパン!
「女性好きで――」
ッパン!
タスケテ……。
戦士たちのパレードから数刻、大きな建物に広い敷地、三方向に分れた馬車群のこの馬車がここに到着した。どうやら三大ギルドの一つ、不知火の萌芽の敷地内らしい。
綺麗に整理された庭にみずみずしい噴水。ここは裏口の庭らしく、少し陰っている。
大多数の有志たちは各々の宿、家で明日に迫る報酬の祭儀を待つ。幸い、親しく接してもらったバッツさんの計らいで、俺たちの組みはここで一泊し、明日に向けて心身を休む事となった。
「また後でな、ネット。部屋に行こうかリンスー」
「またネ。……アイヤー、こちの装飾も綺麗ネ」
「あまりジロジロ見るな」
「だて新鮮ヨ。私――」
マックス君たちとオックスさん達は既に各々の部屋へと案内された。今、女性陣が俺に再会を言って去っていく。
「ふぅ」
豪華な客室。一人のゲストにはもったいない広さだ。まぁ野宿生活が常だった俺だから思う事かも知れない。
夕食にみんなと合流する予定だが、まだ時間がある。敷き詰める絨毯を汚さない様に大きい布を敷く。
「ッフ、ッフ」
久方ぶりの筋肉トレーニング。逆立つ体を支えるのは親指一本。リズムよく息をしてプッシュアップ。布を敷いておいて正解だ。汗がいつもより出ている。やはり日課をサボるのは良くないな。
日課のトレーニングを終えたが、まだ時間がある。汗を流すためギルド内にある浴場に行くことにした。一般人は入れないが、ギルドメンバーとゲストなら入れるらしい。おおまかな場所は聞いていたので、難なく辿り着いた。
裸一貫でいざ出陣。手頃の手拭いを握りしめ湯煙の向こうへと進む。
数ある一つの腰掛に座って温水が出る管を頭と体に流す。水の音、ひたひたと歩く音、湯に浸かり談笑する声。その音を聞きながら石鹸で隅々を洗う。
何気なく使っているが、石鹸て結構高かったような……。それが当たり前の様に並んでるから、さすがは三大ギルドの一つだと内心驚いた。
広い浴場。自慢の浴場だとバッツさんは言っていたが、それは間違いなかった。
体を綺麗にした後、数ある湯船を選別していた。さて、どこに入ろうかと思っていると、見知った集団が屯している一角を見つけた。
「――っく! まさかこのオックス様が負けるとは!」
「へへーン! マックスには色々と敵わねーが、ここのデカさだけなら俺に軍配が上がるのさ!」
「比べる物でも無いでしょ……。意地っ張りなんだから」
「マックスの言う通りだぜ。結局は
なんと三人衆と幼馴染二人にバッツさんが同じ湯船に浸かって談笑しているのではないか。早速く向かおう。
「ッフ、バッツさんの言う通り心も大事でしょう。ですが! 物を言うのはやっぱりコレッ! オスとして雄々しくあるべきですよ!」
「ックソ! 持っている者が言うとそれっぽく聞こえるぜぇ! 悔しいが、一理あるのが分かってしまう!」
いったい何の話で盛り上がっているんだろうか。周りの環境音で定かではない。
「あの、あまり真面目に受け取ると良くないようなぁ……」
「何をぉお!? まだ未使用だけど! 絶対ヒーヒー言わせる自信があるんだぞ!」
「なんだよ、まだ女を知らねーのかぁ。なんだったら、俺たちがいい所に連れて行っても良いんだぜ?」
「マジスかオックスさんいやオックス様マジでマジすか――」
「ええぇ……」
マックス君がジェット君にドン引きしている。何故だろう?
「ッハッハ! この話はまた日を改めてだな……おッ!?」
オックスさんと目が合った。手を振って応える。だがどうだろう、目が飛び出て顎が開いて閉じていない。
「ん? どうしたんですかオックスさん……。あ、ネットさんがこっちに……ッッ!?」
マックス君とも目が合い笑顔で応えた。だがこっちも驚きを隠せないでいる。何故に?
「やぁ皆さん。バッツさんが言ってた通り最高の浴場ですね。もう気分も洗われる様ですよ」
俺の登場に浸かる全員が振り向いた。
「いやーマジでそうですよねぇ。ネットさんも――」
「……?」
「」
「ジェット君?」
「」
急に絶句したジェット君。どうやら俺の筋肉を見て絶句してしまったらしい。自慢じゃないが俺の筋肉は結構凄いと思う。まぁ目指した訳じゃないけど。
「あの、ネットさん。調子乗ってすみませんでした。上には上が居るんだと痛感しました。ハイ」
「……なんで謝ってるの?」
「バカなんで気にしないで下さい」
この日のお風呂はみんなで浸かって楽しかった。
「これより有志にスタンピード撃退の報酬を渡す! なお、馬車に割り当てられた有志には一律のゴールドが賜われるが、早期撃退に貢献した馬車は別途の報酬が割り当てられる!」
翌日、ギルドの敷地に騎士団が到着し、予定通り報酬が渡される。流石帝国と言うか、太っ腹だが、一律のゴールドは一ヵ月は遊んで暮らせるものだった。
その報酬が命を張った物に見合っているかは分からないが、有志たちの笑顔を見ると満足しているようだ。
「崖側を対処した馬車の者達は前へ!」
俺含む有志が一歩前へ出た。
「此度のスタンピード。およそ三分の一を壊滅させた崖側の有志達には別途の報酬が出る事を通達する!」
おおおッ! と、湧く有志たち。もちろん俺も含まれる。
「そして多大な貢献を成した有志、ネット・リーガルは前へ!」
「……へぁ?」
呼ばれるとは思っていなかったため、思わず変な声が出た。そして突き刺さる注目する視線の数々。少したじろいでしまうが、言われた通りに人を掻き分け、前へ出た。
「傍若無人に残虐非道なスタンピード。そのモンスターによる災害に致命的なダメージを与え、あまつさえ協力者が居たとは言え、首魁を忘却の彼方へと押し戻した功績は非常な貢献である!」
首魁を相手したと口にした途端、ざわざわと周りが騒ぎ始めた。俺は棒立ちである。
「遵って、貴殿には心ばかりの謝礼とし、2千万ゴールドと――」
『ッおお!!』
周りの有志が盛り上がる。
「帝国が所有する国宝の一つを与える物とする!」
『ッッ~~おおおおおおお!!!』
マジでか!? 2千万ゴールドなんて大金に国宝だと……!? いったい何年遊んで暮らせるんだ……。それに国宝? いいの? 俺なんかが大層な物貰ちゃって。
「おいおいどうなってんだよ!」
「中級ギルドの資産並の報酬だぞおい!」
「いったいどんな国宝なのかしら!」
有志たちの驚きがこの場を包む。四人組や三人衆、女性陣もワイワイしている。俺も内心踊りに踊りまくったが――
「しかしッ!!」
長くは続かなかった。
「貴殿が放った一撃は地図を書き換える程であるッ! すなわち! 我らが帝国の領地の一部を破壊したものとみなし! 貴殿に5十億ゴールドの賠償を命じる事とするッッ!!」
『え゛え゛え゛えええええええええええ!!!』
「……へぁ?」
あれ……? もしかして俺……詰んだ? 5お……え? 賠償? バイショウ?
アレ? 目の前が真っ暗だ? いやグルグルする? バイショウって何だっけ? アレ? ゴオクゴールドノバイショウ? 溶ける。溶けちゃう? オレ、トケチャウヨ――
「しかしッ! 貴殿の功績も多大であるのも事実! 遵って、一律の報酬と 2千万ゴールド、並びに国宝の返還と返金を以ってこれを不問とするッ! 以上!」
「」
「これにてスタンピートの報酬授与を終える事とする! 解散!」
「」
カ~エリタ~イ。カ~エリタ~イ。アッタカハウスガマッテイル~。カ~エリタ~イ――
「な、なんか様子がおかしいぞ……」
「口から魂出てるネ」
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