第7話 看板メニュー
看板が指す方向の先には、草木に囲まれた、小屋のようなものが立っているのが見える。
近づくと、ここが本当のカフェであることがわかった。
ガラスで貼られた窓から、店内のようすがみえる。
覗いてみたが中には誰もいないようだ。
晴人は、入り口の扉の前で深呼吸をし、扉を押した。
「いらっしゃいませ。」
店主だろうか、中から若い女性であろう声が聞こえてきた。
いや、、待てよ、ここは動物の世界だ。
何がいるかわからない、、
そう思いながら晴人はは恐る恐る一歩ずつ店の中へと足を踏み入れる。
店の中を見ると声の主はすぐにわかった。
店の中にはただ一人、長い黒髪の若い女性が立っていた。
はっきり言ってとても綺麗な人だ。
「あら、人間のお客様ですね。」
「あなたも、人間ですよね。」
「はい、そうですよ、このカフェのオーナーのサラファザです。」
晴人はなぜか安心感に包まれた。
この世界で人間に出会ったことへの気持ちだろうか、いや、その人があまりに、端麗で、その人にどこか抱擁力を感じたからだろうか。
どちらにせよ、感じていた孤独感は取り払われた。
「あなた、お名前は?」
「晴人っていいます。」
サラファザと目を合わして話すのはなぜか緊張した。
茶色のエプロンに透き通った声、白く美しい肌、まるで女神だ。
「晴人さん、こちらではあまり聞かないお名前ですね。何か飲みますか?」
「あ、お願いします。」
そう言って晴人はサラファザの目の前にあるカウンター席に座った。
「サラファザさん、実は少し気になることがあってきたんです。」
「なんでしょうか?その前に、サラファザさんと呼ぶのはやめてください。みんなからはサラと呼ばれています。晴人さんもサラと呼んでください。」
「サラ、、さん…」
頬のあたりに熱を感じた。女性を名前で呼んだことなんていつ以来だろうか。
赤くなった顔を隠すため少し俯きながら、本題に集中するんだと自分に言い聞かせる。
「あの、店の前に立っている看板があるじゃないですか、あれっていろんなところに置いてあるんですか?」
店の前に立っている看板を指差しながら俺はぎこちなく聞いた。
「あの看板はひとつですよ。」
サラさんは顔色ひとつ変えずにそう答えた。
「え、」
だったらあのときの看板は、この店とは関係のないものなのだろうか。
「どうかされたんですか?」
サラさんは不思議そうにこちらを見ている。
「いえ、何もありません。」
自信のなくなった俺は思わずそう言った。
「あの看板は、求める人のところへしか表れませんからね。」
サラさんは聞こえるか聞こえないかギリギリの大きさでそう呟いた。
小さい声だったので全てを聞き取ることは不可能だったが晴人はすぐさま聞き返した。
「え?どういうことですか?」
サラさんは俺をあしらうように答える。
「いえ、なにもありませんよ。」
「それより、何かお飲みになりませんか?こちらがメニューになります。」
と、サラさんはメニュー表を俺に差し出す。
「あ、あぁ ありがとうございます。」
メニューに書かれていることはそう多くなかったので、すぐにその文字が目に留まった。
「神の水」
カフェの看板メニューです。
と補足されて大きな文字で書かれているそれが気になってしまい、いつしか晴人のさっきまでの疑問はだんだんと消えていってしまった。
学校サボったら動物達の村に飛ばされました 味醂 @anpurin
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