第57話 番外編 凱旋される(平原目線)
もう少しでバレンタイン。そんな2月の頭の頃、
「健さん!ジャズピアノのコンサートいきませんか?」
大学からの帰りが一緒の電車の中で奏音が嬉しそうに話してきた。
「ジャズ、ジャズ。あんまり聞いた事ないけど。俺でも分かるかな?」
「今回はバレンタインコンサートなんです。有名な日本在住のアメリカ人のピアニストさんで、ネットでも動画あげてて有名で、あ、楽譜も出されてるんです。超絶技巧で…… 」
奏音が矢継ぎ早に話している。そんな様子を見るのも楽しい。と内容は適当に聞きながら彼女の話す様子に見惚れていると突然
「そのピアニストさんと
雷が落ちた。
「優くんって伊藤?」
思わず確認した。
「そうです。アメリカに治療も兼ねて行ってて。だいぶ良くなったみたいです。楽屋挨拶とかいきます?健さん話したこと無かったですよね。私、彼氏ですって紹介したい!あれ?健さん?」
そう言えば、あまりの幸せに忘れていた。奏音には伊藤がいたことを。ピアノを弾けるようになった。有名なピアニストと舞台に立つ。完全復活。凱旋帰国だ。俺はこのまま奏音と一緒にいて良いのか?思わず奏音を凝視する。
「どうしました?健さん?」
「その、コンサートは、いつ?」
ようやく声を絞りだして言えたのはそれだけで。
「バレンタインコンサートなのですが、土曜日の12日になります。予定入っちゃってましたか?夕方6時からの場所はABホールです。定期で行ける所ですよ。」
「うん。予定、調べとく。」
「もっと早く言えば良かった。チケット届いてからって思って。」
「うん。」
「もしかして、健さんテスト期間ですか?」
「うん。」
「うわー。ごめんなさい。私は2月末なので、コンサート終わってから頑張ればって。あと、14日は今年月曜日ですよね。ただ帰るんじゃなくて少し寄り道したいです。ね?健さん。」
「うん。」
奏音が何を言ってもただ、
奏音と再会してからもう少しで1年となる。付き合う事ができて夢のようで。すっかり忘れていた、あの光景が頭に浮かんできた。
奏音の肩に頭をのせて甘える伊藤。その頭をポンポンと撫でる奏音。
あの時、2人の間にある絆の様なものを目にして俺は告白とか奏音と付き合うといった未来を諦めたはずだった。なのに、伊藤が日本にいなくなった事をいいことに再会して告白して。まるで間男じゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます