第58話 番外編 連絡がつかない(蔵森奏音目線)

 平原さんと連絡がつかなくなった。最初はテスト前で忙しいのかなと思ったのだけど、かれこれ4日、SNSにメッセージを入れても読んだ跡が見えない。毎日大学帰りは一緒だったのにいつもの時間に乗っても会えない。


 さすがにおかしいと思って切り札戸村さんを早々に使った。


『助けて下さい。健さんと連絡が4日つきません。電車でも会えないし、明らかに避けられているのですが。』


『ありゃ。分かった。なんか心当たりある?ケンカしたとか?』


『ケンカはしてません。ただ、12日のABホールでのジャズピアノコンサートに誘ったあとから連絡つかなくなりました。』


『り』


しばらくしてから、戸村さんから連絡があった。


『タケちゃん俺のも無視るー。お母さんにきいたら普通に生きてるってー。』


『おい、調べたら、伊藤が出るコンサートじゃん!』


『ちょっと蔵森ちゃん!顔貸しなさいよ!』


『俺とタケちゃんの仲まで裂くんじゃないわよ!タケちゃんが俺を無視るなんて!なんて事してくれたのよ!』


『マジでもう有り得ないんだけど!』


『タケちゃんが連絡くれない!!!』


戸村さんの怒りの連投が。しまった。切り札怖い。そして、とうとう呼び出されて、A1高校最寄り駅のファーストフード店にて蟹江さんと戸村さんと元書道部部長のヨシコさんにぐるっと囲まれる事態となった。


「ふーん。元カレが出演するからと送ってよこしたチケットのコンサートに誘ったか。そりゃあの置物もさすがにヒビ入るぜ。」


「蟹江さん、あの、優くんは元カレではなく、幼なじみで連弾のパートナーだっただけです。」


優くんはカレシであったことはないので否定しておかないと。


「元カレかどうかそりゃ関係ないわね。幼馴染、連弾のパートナー。美味しいわ。」


ヨシコさんは美味しそうにポテトを食べながら口を挟んできた。


戸村さんはドンとテーブルをグーで叩くと


「タケちゃんは伊藤と蔵森ちゃんの関係を気にしてたから。もう、これ蔵森ちゃんを伊藤に譲る気よ。あんた譲られる気?」


健さんとの思い出が頭の中をさっと巡って行った。それは優くんとの年月には及ばない短さであったとしても私にとっては大事な日々で、かけがえのないもので、「かのん」とちょっと照れながら呼ぶ健さんの顔が浮かんだらもうダメだった。連絡がつかなくなった寂しさも相まってボタボタと目から涙が溢れ落ちて、テーブルを濡らした。


「あら、もう。よしよし。戸村くん言い方キツいよー。」


ヨシコさんが慰めてくれても涙は止まらなくて、慌ててカバンからハンカチを出して目を抑えた。


「戸村〜平原捕まえようぜ。」


蟹江さんの声がして、


「ちゃんと話し合わせてあげようよ。」


とヨシコさんが言った。


「んもう。世話が焼ける〜んもう。」


戸村さんがちょっと不満げに了解してくれていた。

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