第55話 番外編 氷の日
それから毎日、戸村から氷の様子の写真が送られてきた。俺は一体何を見させられているんだろう。終いには
『明日にはこの氷子ちゃんが食べられてしまうと思うと感慨深いです。』
なんて文面になっていた。氷に名前ついてるし、性別は女子みたいだし。大丈夫か?戸村。
6月1日は、大学の授業自体は14時半までだから、急いで向かえば科学部にいけないこともない。だけど、
「平原さん!」
俺を見つけて手を振っている蔵森さんと会う約束を。
俺の大学がある駅の改札口で待ち合わせをしていた。今度の休みにどこに行くか相談するのと、この駅近に蔵森さんが行ってみたいパフェ屋さんがあるとか。今日の彼女は花柄の長めの薄手の上着を羽織っていて可愛かった。
地図アプリを起動しながら行った先のビルの登っちゃいけなそうな階段の下にそれだけ普通の喫茶店風にメニュー表示した黒板があってそれを見つけて嬉しそうに
「あったー。ここ!」
とにっこりと笑ってズンズンと蔵森さんは登っていった。店の洋風のドアを開けると鐘がなり、店内はミントブルーの花柄のメルヘンな喫茶店だった。俺1人じゃ絶対来ないけど、戸村なら喜びそうだとちょっと思ったのがいけなかった。
エプロンをかけた店員さんに案内されて蔵森さんと向かいあって座りながら、メニューを広げて選んでる間もずっとスマホがメッセージの受信を告げ続けた。一回チラッと確認すると戸村だったので、無視しているとさすがに蔵森さんが
「確認しなくて大丈夫ですか?私なら気にしませんよ。」
と言ってくれた。
「いや、あの、戸村なんだ。大した用ではないと思うんだ。」
「そうなの?」
その会話を遮るようにとうとう電話の呼び出し音が鳴った。ごめんと手で謝ってお店の外で電話に出ると、戸村が、
「大した用事なの!」
と怒鳴っていた。なんでもかき氷機の場所だり、かき氷のカップは在庫あっただろうか、練乳いるかどうか蟹ちゃんともめている(蟹ちゃんと一緒に母校訪問するらしい)とか。ひとしきり相手をして戻るとパフェとともに蔵森さんが寂しそうに待っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます