第44話 番外編 伊藤優の話2 本編14話冷たい空気の会話が分かります。

「父さんの仕事と俺の治療もかねて家族でアメリカにしばらく行くことになった。」


もうすぐ冬休みになる、そんな寒い日だった。のんちゃんに話があるから、一緒に帰らないかと言って昇降口で待ち合わせた。門を出て人がまばらになってからそう切り出した。


「そっか。いつから?」


「春休み中に消えるよ。そのうち母さんからのんちゃんに話があると思うし、ピアノの方も新しい先生、紹介されると思うよ。」


「わかった。」


のんちゃんは言葉少なかった。何かもっと話をしたくて、目の前のコンビニに誘った。


「こんな所で、優くんとお茶してたらファン達に怒られそうだわ。」


俺が奢りだと言って渡したミルクティーを飲みながらのんちゃんは文句を言った。のんちゃんを離すために近寄ってくる女子と適当に付き合っていたらその女子達と陸上部の奴、中学派閥やら絡み合ってかなり面倒臭くなっているのは知っていた。


「俺のせいで、のんちゃんに迷惑かけてる。」


と一応、謝ると


「誰かれ構わず付き合うからよ。」


と姉さん風をふかしてきた。


「みんな、可愛いいからさ。つい」


というと更に呆れた顔をされた。


「こっちのお医者さんは合わなかったの?あまり通いたがらないとは聞いていたけど。」


のんちゃんは話を戻してきた。実はお医者さんには通わなくなっていた。マッサージとか鍼とかちっとも効く気がしなかった。


「一緒に行ってくれるならいく。1人じゃやだ。」


そんなふうに昔に戻って甘えてみた。


「何言ってんの。英子先生がつきっきりで行ってくれるんじゃないの?」


「母さんとなんか嫌に決まってんじゃん。のんちゃんが良い」


「心にもないことを。」


呆れ顔の彼女は取りあってくれなかった。当たり前か。彼女を遠ざけたのは自分の方だ。


「のんちゃんさ、あの頃に戻りたいとか思わない?2人で勝手に編曲して連弾してた頃。楽しかったね。走ってても良いタイムだしてもあの快感には勝てないよ。なんで手が動かないんだろ」


それが俺の本音だった。ただ俺はのんちゃんとピアノで遊ぶのが好きなだけだった。コンクールへ出るためのレッスンは本当に嫌いだった。すっと初見しょけんである程度弾けてしまうのんちゃんに比べて、俺は楽譜が、ぴったりその通りに弾くそれが苦手だった。でものんちゃんより弾けない、出来ない事を母は認めてくれなかった。そんな色んな事が込み上げてきて子どもの頃よくやっていたのんちゃんの肩に頭のせをした。これをすると落ち着いて出番前なんかで震える手もよく治った。記憶よりのんちゃんの背が低くって自分の身長が伸びた事を感じた。



のんちゃんはいつものように頭をポンポンと撫でてくれた。


「そういやさーのんちゃん、最近、彼氏とはどう?あまり、学校でカレカノ的にいるの見たことないけど、」


ふとのんちゃんは彼氏持ちだった事を思い出した。ヤキモチ焼きな彼氏だったら俺は殴られてしまうかもしれない。


「あーうん。まあ、うん」


急にのんちゃんの歯切れが悪い。


「もしかして、嘘?彼氏?」


「いや、多分。まだ彼氏。うーん。あんまりいちゃつく人じゃないっていうか。私を尊重してくれるっていうか」


いよいよもってあやしい。


「紹介してよ。俺、親戚としてお願いします的な挨拶したい。」


というとのんちゃんは慌てあわてだした。


「無い無い!私は優くんの彼女に会いにいったことないわよ。大丈夫だから。あんなに気が合うというか空気が合う人初めてなの。ただ黙って立ってるだけで守られてるような安心感をくれる人なんだよ。大事にしたいの。だから大丈夫。」


赤くなりながら、必死に止めてきた。




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