第42話 番外編 蟹ちゃんと戸村くん(戸村目線)

「蟹ちゃんさータケちゃんが女子とイチャイチャとか想像できる?」


俺、戸村は蟹ちゃんと同じ大学に入学した。同じ工学部。学科は違うけど。一年のうちは取る科目が大体一緒だから蟹ちゃんとよくいる。ただ蟹ちゃんはまた吹奏楽部に入って激しく自主練してるからすぐ消える。どこの強豪校だといいたくなるが、よほど好きなんだろう。なら、音大とはいかないんだろうなぁ。なかなか。音大で思い出した。タケちゃんが蔵森ちゃんとどうやらデートをしたらしい。そこで、冒頭のセリフになる。蟹ちゃんはリズムをとりながら、(なんのリズムよ、脳内なんの音楽流れてんのこの人)


「全然」


無下むげもなく歌うように答えてくれた。 


「だよねー。能面のまま直立不動で、女子と平行線で歩いてるのしか浮かばない。」


思わずため息をつくと、


「てか、あの平原に彼女できたの?」


と蟹ちゃんがようやく脳内音楽から解き放されたらしく戻ってきてくれた。


「蔵森ちゃんとS大付近で何回かデエトしてるんだって。」


「なんだ相手は蔵森さんかー。知り合いが仲を深めた奴ね。いや、俺てっきりあのダンマリ野郎がナンパでもしたかと思ってかなりあせった。」


「ナイナイ。タケちゃんがナンパなんて。大体、蔵森ちゃんと会えるだけで満足しちゃって3年越しの告白もまだってタケちゃんSNSくれたけど。」


「3年越し?そりゃなかなかの拗らせこじらせっぷりだな。告白はまだってもする事はしてるよ。」


「まさか!」


「例えば、」


今講義室での休み時間で、ソーシャルディスタンスを空けて座っていた蟹ちゃんはその席を詰めてくると、俺の短い髪をむりくり耳にかけるようにして、かかんないから!


「顔がよくみたかったんだ」


囁いてささやいてあごクイしてきた。


「おーい蟹ちゃん?」


蟹ちゃんはパタンと手を離すと


「こうやってもう、チューしてるさ。平原絶対ムッツリスケベだからな。言葉は少なくやる事はやる感じ?」


と腕を組んで偉そうだ。タケちゃんの事をさもよく知ってるみたいに言われてちょっとむっとした。


「タケちゃんは純情だから、手順踏むからこっちからだって。」


蟹ちゃんの手を取ってそっと握って


「手冷たいな。」


ってタケちゃん風に言ってやった。


そこへ


「あんたら、さっきから何やってんのよ。」


蟹ちゃんの手を握ったまま振り返ると

呆れ顔のヨシコが立っていた。

しまった。ヨシコも同じ大学だった。


番外編 蟹ちゃんと戸村くん fin









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