第34話 卒業式の前日

「タケちゃんがS大学を本当に受けるなんて。首尾はどう?」


蔵森さんがいなくなって一年五ヶ月あまり。今日は久しぶりの登校日、卒業式の予行の日だ。国立大学の前期試験が終わったばかりだからその話題でもちきりだ。


「うーん。悪くはなかったとは思うけど。」


「かなり早くから目標にしてたもんなー。俺は国立だろうが、私立だろうが、県内の大学って親に言われてるから、タケちゃんにはついていけなくて残念。」


三年になっても同じクラスで、出席番号も前後で随分ずいぶんと戸村には助けられた。


「卒業しても時々会いたいね。戸村。」


「やーん。タケちゃんがそんな事言うなんて戸村泣いちゃう。」


 卒業式の予行のこの日に文集と卒業アルバムが配られるのが通例だ。今年の文集を眺めながら、これがはじまりだったなと懐かしく思った。勝手にしんみりしているともうホームルームは終わっていた。


 卒業式の日は保護者が来たりするから、部活の後輩達とのお別れ(色紙をもらったりする)は今日放課後という事になっていた。あまりたくさんの人が集まらないように学校側が在校生の出席を最小限にしているからだ。


 科学部の数学班は今の二年生に希望者が現れず、存続が危ぶまれていたが、一年生に優秀なのが入ってきていた。頭が良いけど感情が顔に出にくい如月さんとパソコン好きな大柄の佐田くんの男女コンビだがうまい具合にこなしているらしい。引き継いでから、苦情は安田さんからの「後輩のくせに可愛いくない」のみである。


「戸村先輩、第二ボタン下さいよー。」


安田さんが戸村に絡んでいる。


「明日、卒業式にボタン無しでいけないでしょ。無理。大体俺の第二ボタンは予約入ってんの。」


戸村がしっしっと安田さんを追い払う。


「じゃあ、平原先輩下さい。ていってもなー平原先輩S大学じゃないですかー。格好良いですけど、これで付き合うってなってもー私は同じ大学行くの難しいからー大変だからやっぱり戸村先輩下さい。」


こりない安田さんにビックリしていると

如月さんが色紙を安田さんの手に持たせ、


「無駄な事してないで、早く、先輩方に渡してください。一年生はこれから卒業式の式場を消毒しに行くんですから」


と言い放った。凄い。絶対、次期部長だ。




 






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