第31話 相合い傘

 理科室に向かう途中、階段で科学部の後輩達に出くわした。問題発言をしたあの安田さんもいた。俺の隣の蔵森さんを見て目を見開くし身体を乗り出してくるから思わず後ろにかばってしまった。


「どうしたんだ?お前ら」


と声をかけると物理班の富田くんが、


「傘借ります。」


と般若心経が書かれた傘を見せてきた。


「私は告白バージョンで」


と安田さんはひたすら告白セリフが書かれた傘をみせてきた。

木村くんが


「すみません、俺メスシリンダー行きます。」

 

といえば、村田さんは


「お札になっちゃいました。頑張ります。」


という。


「あれ、残り、相合い傘?」


て在庫を思い出す。


「はい。先輩さようなら〜」


富田くんを先頭に、振り返って蔵森さんを確認しようとする安田さんを村田さんと木村くんが無理矢理押しながらそそくさと逃げていく。


そして理科室には相合い傘のみが残っていた。


「科学部の発明品で、絶対盗まれない傘シリーズなんだ。」


と蔵森さんに説明すると、


「最強はこの相合い傘って事ですよね。」


と蔵森さんは神妙な顔をしてうなづいて俺から渡された目の傘をしっかりと握りしめていた。


「平原さん、傘どうするんですか?」


相合い傘を放置して理科室を閉めた俺に蔵森さんが聞く。


「小雨なうちに駅まで走るよ。」


「小雨ですか。」


雨足が無情な音を立てていた。


 しばらくの押し問答の末、



「蔵森さん濡れるよ?」


「平原さんが逃げすぎるんですよ。コンビニまでなんですから我慢して近く歩いて下さい!」


蔵森さんは傘が盗まれた時点でそうするつもりだったからと最寄りのコンビニまでお迎えが来ることになり、そこまで目の傘で相合い傘をする事になった。気恥ずかしいが、理科室で時間をとられたせいか、あまり人もいなくて助かった。


「こんなにたくさん目を描くなんて。見上げると咎めとがめられてるみたい。」


蔵森さんがボソッと呟いつぶやいた。


「盗んだ人の罪悪感を煽るあおるだったかな?作者の意図。これ、内側に描くから先輩寝そべって描いてたよ。俺にも描けって言うから、ここ」

 

俺が描いた目を指すと、


「平原さんでしたか。目ってそのまま漢字じゃないですか。」 


「絵心ないからね。」






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