第24話 月の光
「平原さんは乗り換えですか?」
この電車は所謂盲腸線であり単線で一車両、多くて二車両、始発が高校最寄りで、終点がJRへの乗り換え駅である。
「うん、上りに。蔵森さんは?」
「私はバスに乗り換えです。」
あと、10分弱でこの時間もお終いだ。
「明日はずっとは無理でも必ず行く。ピアノまた、聞きたいんだ。蔵森さんには蔵森さんの音があるって思った。」
彼女が蟹ちゃんから見張りを頼まれた俺を気の毒がってカレカノの噂を肯定して自らを見張りの代わりにしたのは分かっていたけど、これだけは言っておきたかった。
「聞きたいとか。。私の音。。」
言葉に詰まった隣に座ってる彼女をみると顔を両手で押さえて下向いていた。具合でも悪くなったのかと慌てたけど、暑いからか髪を高くポニーテールに結んでよく見える彼女の耳が真っ赤になっていて照れているのだと察した。するとこちらもなんだか柄にも無い事を言ってしまった気がして照れがうつってしまう。
「や、なんだか、古い車両だからか冷房の効きが悪いね。」
「あ、そうですね。」
と2人で手で顔を煽いだりして挙動不審だ。
と、蔵森さんが、
「平原さん、ピアノ曲とか聴いたりするんですか?好きな曲とかあったりしますか?」
思いついたように聞いてきた。
「月の光?とか?」
「ドビュッシーですか?」
「小学校の給食の始まりに流れるんだ。だからお腹空く曲。」
「月の光でお腹空くって初めてきいたかも。」
「もう、パブロフの犬みたいだよ。いや、あの放送委員になって初めて月の光って曲だって知って、お昼に合わないと思って別の曲を探してみたんだ。先生には歌が入ってなくて落ち着く曲にしなさいっていわれて、ピアノ曲とかクラッシックとか」
「みつかりました?」
「お菓子の名前がついたのしか見つからなかったなー。」
そんなたわいもない話をしていると終点に着いた。さすがにJR駅は暑い夏の昼下がりとはいえ人通りがあり、お辞儀してバス停へ向かう蔵森さんをぎこちなく手を振って見送ると人目を気にしながら上りホームへと向かった。
多分顔はなんせ戸村に置物とか形容されるし、動じないなんて蔵森さんまで言ってくれるわけだから至って普通なんだと思う。ただ改札を何故か一回で通れなかったり乗る列車の車両数を間違えて目の前に車両が無くて走るハメになったりと家に帰るのに苦難を要した。思い返して動揺していた。蔵森さんなんて言ってた?彼氏さんて聞かれてうなづいた?
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