第23話 発車まで

「数学班って凄いんですね。蟹江さんが印籠を持ってそうな勢いで紹介するから笑いを堪えるのが大変で。」


先にアイスを食べ終わって箱に丁寧にゴミを詰めながら蔵森さんが言った。


「物は言いようってだけで、雑用している便利屋だけどね。でも、確かにいろんなとこの秘密は握ってるのかもしれない。」


暑さで液体になりそうなアイスを飲みながら答えると、


「平原さんは信用されてるって事ですよね。私の時も話聴いても黙って噂の嵐が過ぎ去るのを待っててくれたし。」


過大評価だ。


「何もしなかったけど。」


「ううん。周りが噂してても動じないでいてくれたから助かりました。騒いだ方が悪いみたいな流れを呼んだ感じです。知ってます?今でも一部では私と平原さんはリア充だって思われてるんですよ。」


思わず、蔵森さんの方を向くと蔵森さんも俺の方を見ていて、


「うふふ。驚きすぎです。平原さん。」


と可愛く笑っていた。


「いや、あの戸村の話ではあの時ですら、彼氏みたいなとか、俺は当て馬だ的な噂になってるって話だったから、もうそんな嘘誰も信じてないと」


慌てて否定すると、


「今日、書道部の人に言われて私もびっくりして。あの人蔵森さんの彼氏さんですよねって。」


「あ、ごめん。姿、現したりして蔵森さんがいるとは知らなかったし、あとは蟹ちゃんに無理矢理。」


半ばパニックになりながら何故か謝ると、


「そのまま頷いちゃったので、私が居る時は音楽室で書道部は墨使えないと思いますよ。だから明日はずっといなくても、顔出すくらいで大丈夫です。」


と蔵森さんはサラッと言った。


「良いの?蔵森さんそれで。」


「ダメでした?平原さんの方で問題ありました?」


「いや、俺は助かるけど、俺なんかとまた誤解されて蔵森さんに迷惑が。」


「かかりません」


蔵森さんは妙にきっぱりといいきった。


 そこで電車が来るとアナウンスが流れ、アイスのゴミを捨てると、始発で無人の電車に2人だけの乗客となった。



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