第22話 アイス同じ

 結局、墨汁を使わさせずに終わらせ、音楽室から書道部を追い出す事に成功した蟹ちゃんは職員室に厳重抗議にいくと言うので、俺は理科室に用があるからと同行は拒否させて貰った。


「明日お願いな!」


と必死な蟹ちゃんには科学部の合間の顔出しで良ければと言っておいた。明日なら戸村もいるしとちょっと心の中で戸村をあてにした。理科室を戸締りし、通学バスが夏休みは運行してないので最寄りの駅まで歩いて電車を乗り換えてさらにバスに乗って帰らねばならない。面倒くさいなと思いながら校舎を出た。


 外は暑い。頭とか制服のズボンとか黒い部分がとにかく暑い。まとわりつくような暑さをまといながら駅まで歩く。頭の中では何度も蔵森さんのピアノの音が再生されていた。弾いている彼女の姿も。正直、パフォーマンスも歌もあまり見ていなかった。春の合唱の時以来の彼女の軽やかに鍵盤の上を動く指が紡ぐ演奏はやっぱり綺麗で、その音も好きだった。


 駅に着くと15分もの待ち時間だった。ローカル線の無人駅だから当然冷房つき待合室なんてものは存在せず、プラットホームに出て自販機でアイスでも買いながら、風に期待した方が良さそうだとのろのろと向かった。変な時間のせいか人影が見当たらないと、キョロキョロしていると、俺と同じソーダ味の水色のアイスを食べてベンチに座っている蔵森さんと目があった。思わずペコリとお辞儀をして留まるか通り過ぎるか逡巡していると、


「アイス同じ。」


と蔵森さんが呟いた。なんとなく


「今日はこれかなって」


と返すと


「次の電車まで15分もあるの。ここ座りませんか?」


と蔵森さんが自分の隣に誘ってくれた。

他にこのホームにはベンチはないし、人もいないし、断って離れたとしても妙な感じになるしと心の中で沢山言い訳しながら


「お言葉に甘えて」


と座ると


「礼儀正しすぎる」


クスクスと蔵森さんが笑った。

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