第19話 お化け屋敷

 配達なんてやってたっけと聞くとさらにドーナツ詰め合わせ5個も頼まれていてお代は徴収済みだとか戸村に畳み掛けられた。なら戸村が行けばと口から出そうになって戸村の厚意も分かっていたから大人しく2年4組に向かうと、お化け屋敷だった。


 客では無くて蔵森さんに届け物だと言うと、奥で看護師をやっているからと入場させられてしまった。監修した奴のセンスが怖すぎるお化け屋敷で、薄暗いなか転がってる首だけマネキンに驚いてると定番のコンニャクに襲われうっかりゾンビの冷たい手と握手をしながら蔵森さんを探す。養生テープに巻かれた大柄のミイラ男に抱きつかれながら、所々赤い汚れのついた看護師の後ろ姿を発見した。


「蔵森さんかな?戸村から届け物だけど」


振り向いた看護師の顔は髪の毛で覆われていて有名なホラー映画のTV画面から這い出てくる女の人風で、看護師にしては清潔感がないとミイラごと後ずさるとその看護師はおもむろに髪の毛をかき上げた。思わず目をつむった臆病な俺を許して欲しい。それなりにここまでの行程で精神は弱っていた。 


「平原さん?ごめんなさい。忙しいのに。」


声が蔵森さんだった。目を開けると懐中電灯を持ったすまなそうな顔の蔵森さんが髪の毛の合間からのぞいていた。


「いや、ちょうど休憩とる所だったから」


とカルメ焼き達を彼女に差し出した。


「水原さん離れて、水原さんのご飯来たわよ」


と彼女が声をかけると後ろのミイラ男が離れた。養生テープは所々表と裏が逆になっており、ベリッと嫌な音がした。ホントミイラ男やめて欲しい。ミイラ男の頭はかぶりものだったらしく、頭を脱ぐと薄暗くて顔はよく見えないが人が現れた。


「やったーメシ」


ミイラ男は腹を減らしていたらしかった。  


「助かりました。平原さん。ミイラ男は持ち場離れるの大変だし。甘党だしで。さっきドーナツ持ち帰ろうとしたら、カルメ焼きと一緒に届けるよって戸村さんが言うからあまえちゃいました。」


ぴょこんと蔵森ちゃんが頭を下げてまた髪の毛で顔が隠れて、ヒェッと思ったけどそのままドーナツを食べ出したミイラ男の目線も痛かったからじゃあと蔵森さんに手を振って理科室から貸し出した骸骨に


「無事帰ってこい」


と声をかけ、散らばってる作り物のムカデとゴキブリをよけながらドラキュラさんに送られてお化け屋敷を出た。


 何ヶ月ぶりに蔵森さんと話しをしたのだろう。相変わらず可愛かった。声を生で聴いた。と脱力しながら持ち場に戻った。お化け屋敷が怖かったのではと科学部の連中が噂していたらしいが、まあ、いいや。

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