第15話 光なんか

 冬休みが明けてすぐに1、2年生は実力テストがあり、3年生は大学入試本番真っ盛りとなり学校内は静かな感じだった。学校行事はほとんど済み、これから先は、バレンタイン、卒業式くらいしか思い当たらない。


 そんな中、音楽の先生が浮かれ始めた。「音楽クラス合同合唱祭」なる企画が通ったらしい。芸術科目で音楽を選択するクラス4つでクラス対抗合唱祭なるものを催すことにしたらしい。いい迷惑だ。と思ってもサクサクとパート分けされ、俺はテノール。課題曲と自由曲が決められ伴奏者が決まり音楽の授業は合唱一色だった。課題曲の伴奏者は蔵森さんだ。


  あれから、俺は蔵森さんをあまり見ないように気をつけていた。たまに目が合うと最初のうちは少し微笑んでくれた蔵森さんも最近は俺の表情を伺うような感じになった。よっぽど 


「まずい顔してる」


心の中をそのまま戸村に言われて息が止まるかと思った。体育の授業で更衣室に向かう途中、前方を歩く女子集団の中の蔵森さんを見送ったあとだ。


「タケちゃん、メガネの度数変えたらって言いたくなるようなしかめ面して蔵森ちゃん見てたよ。どうしちゃったのさー」


戸村になんて返せば良いのか分からなかった。そのまま黙って着替えてると


「まあ、いいけどさ。最近はあんまり蔵森さんも悪く言われてないみたいだし。」 


と戸村が教えてくれた。


「そうなのか?」


「梅田くんに他校の彼女が出来たとか、伊藤が彼女取っ替え引っ替えをやめてフリー宣言をしてハーレム形成してるとか」 


「はい?へっ?」


伊藤と蔵森さんの2人でいる姿と雰囲気が未だ頭にまとわりついている俺には刺激的な内容だった。


「梅田くんはその彼女に夢中で蔵森さんの事はどうでも良くなったし伊藤ハーレムは幼馴染で姉みたいなもんと言い切られた蔵森さんはもう眼中にないとか」


幼馴染で姉。その言葉で表現してしまうんだ。あの雰囲気を。


「だから、何に悩んでるんだか分からないけどタケちゃんにも光が見えてきたから、頑張れ。まだ彼氏なんじゃないの?蔵森さんから無かったことにしてって言われた?」


戸村は悪くない。戸村の言いたいことも分かる。でも光なんか見えなくて、俺はジャージを被ると、 


「体育遅れるぜ」


と戸村を待たずに更衣室を出た。


「タケちゃんー。まだ下履いてないの俺。待ってー。」


女子みたいな戸村の発言をドアを閉めてシャットアウトして体育館へ1人で向かった。

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