第14話 冷たい空気

 もうすぐ冬休みになる。少し前に風邪をひいて咳が残ってしまいマスクをしながら時折咳こむ。昔軽い小児喘息だったせいで俺の咳に妙に神経質な母親に


「今日は部活にでないで。学校まで迎えに行くわ。お医者さん予約しておいたから。」


朝に宣言されていた。


 高校近くのイートインコーナーのあるコンビニは送迎スポットだ。店側もとても理解があってうちの高校生たちは皆気に入っている。いつもならバス停に向かう俺は今日は迎え待ちで、イートインコーナーの隅をタピオカミルクティ1つで、陣取った。このコンビニの戸村オススメタピオカミルクティは美味でお値段高めだが、今日くらい良いだろう。男子高校生だってタピオカミルクティぐらい飲む。咳が出るから熱い飲み物は飲みづらいし。しばらくスマホをいじっていると、母親からあと15分待てと指示がきた。


 戸村は情報活動が昂じて柔道部顧問に気に入られ多分今頃、冬合宿の準備を手伝わされている。ほぼマネージャーだ。戸村、多才だ。


 しばらくして混み始め男女カップルなんかもいたりしてそのまま2人の話をなんとなく聞いていた。といっても女子の声は小さくて俺に近い方のやたらイケメンボイスの男の声ばかり聴こえてきた。


「俺のせいで、のんちゃんに迷惑かけてる。」


「可愛いいからさ。つい」


「一緒に行ってくれるならいく。1人じゃやだ。」


「母さんとなんか嫌に決まってんじゃん。のんちゃんが良い」


文面にすると随分甘ったれな男だ。イケメンボイスだから許されるが、見た目によってはと興味が湧いて盗み見ると伊藤優だった。


 あーなるほど。と妙に納得して身体を動かして彼に隠れてる今の彼女と思しき女の子の姿を確認した。髪型が蔵森さんだった。


 2人が一緒にいる所を見た事はなかったからまさかと思って角度をかえて見てみると本当に蔵森さんだった。


 のんちゃん。


 蔵森さんの下の名前は奏音(かのん)だからそう呼んでいるのか馴れ馴れしいとちょっと勝手にムッとしたが、幼馴染の2人なら当たり前なのもわかってはいた。


 まだ、幸い2人には俺の存在は気づかれていない。話を盗み聞きし続けるのかイヤホンして聞かぬべきか、店を出るべきか。頭の中で選択肢がぐるぐる。


「のんちゃんさ、あの頃に戻りたいとか思わない?2人で勝手に編曲して連弾してた頃。楽しかったね。走ってても良いタイムだしてもあの快感には勝てないよ。なんで手が動かないんだろ」


そこで伊藤は蔵森さんの肩に頭をのせた。

蔵森さんは自然にその伊藤の頭をポンポンと撫でていた。


 突然、すごい咳が出そうになった。俺は慌てて店外に出た。店の外でイートインコーナーからは死角になる方まで行ってしばし咳の発作に襲われた。あーこれ絶対苦しいやつ。バレたらまた吸入だ。もう店内には戻れなくて母親が来るまでうずくまっていたら、


「風邪が咳が悪化するー暖かい所でなんで待たないかな」


とずっと母親は車内で説教をしていた。

どうでも良かった。そんなの。

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