脱学校的人間(新編集版)〈12〉
それなしにはもはや生きていくことさえできないというまでに至る、ほとんど全ての人たちにおける制度的生活への強い依存とは、たとえば「一つの病の様相」だと言えるだろうか?
然り。それはたしかにそうなのだと言えるだろう。
であれば、それは「異常なこと」だと言えるものなのだろうか?
否。それはむしろそうではないだろう。
制度というものは、言うまでもなく「社会の正常化」を志向している。ゆえに、それに対する依存という病の様相は、むしろ「正常=健康という病」の様相だとさえ言えるのだろう。
ところで「健康であること」とは、そもそも一体どういうことだろう?そのように積極的に表現できる「何か」が、そこにはあるものだろうか?
実際のところ、「健康」とはそもそもが倒錯的な観念なのだと言えよう。それはせいぜい「病気ではないことを証明するため」に持ち出されてくる観念でしかない。要は「健康という観念に、それ自体として特徴的な状態というものは、本質的には何もない」のである。
たとえば「健康な人」とは一体どういう人を言うのか?それはつまり「健康上の問題が何もない人」のことを言うのでしかないだろう。そしてその「健康」ということが「病気ではない」ということを意味するのでしかないならば、むしろそこには結局のところ「積極的な意味合いにおいて、病気が見出されてしまう」のである。何ものかが「ない」ということは、その逆に何ものかが「ある」ということにおいてでしか見出されえないのだから。だとすれば「実際に健康な人」など、現実には一人としていないのではないか?
そのような「存在しない者になろうとする倒錯」は、むしろ「それ自体がすでに病」なのではないだろうか?たとえば以前に「自分は遺伝子的に乳がんになる可能性がある」ということで、その「予防のため」に全く何の異常もなかった自らの乳房を切除した女優がいたけれども、彼女はたしかにそれで「乳がんという病は予防できた」のかもしれないが、逆に「健康という病」からは逃れられなかったということになるのではないだろうか?
一方で、「人間そのものが病であり、生きていることそれ自体が一種の症状なのだ」というように考えることもできる。一般的に「心理学」とは、そのような認識にもとづいているのだろうと言える。ところが、その認識にもとづいて「あなたは病気である」と診断する者、すなわち医者なるものたちは、たいがい「自分自身は健康だ」と何の疑いもなく信じきっているのである。しかし、実際これこそが倒錯なのだ。それはむしろ自分で自分自身のことを「人間ではない」と言っているようなものなのだから。そしてこのような倒錯の中でしか、「病」なるものは見出しえないのである。これは要するに「病が病を見出している」ということに他ならないのだ。
また、社会に何か問題が生じているというように考えられているとき、一般に「社会が病んでいる」とか「社会にひずみが生じている」とかいうように言われることはよくある。そしてその裏側には、あたかも「病んでいない社会」や「ひずみのない社会」や「健全な社会」や「正常な社会」が想定されているかのようだ。
しかし、社会とはむしろ「そもそもが病」なのである。言い換えれば、社会とはすでに「一つの病として生じている」のだ。
すなわち社会とは、その中に生きる人間たちの、そのそれぞれの間において生じている社会的な諸関係が引き起こす「ひずみ」であり、「ゆがみ」であり、「よじれ」であり、「ほつれ」なのである。そのような「症状の集合」が、まさしく「社会として見出されている」のだ。
逆に言えば、そのような症状が見出されないところには、社会もまた見出されえない。倒錯のないところに、病はない。しかしそのような「何もないところ」が、「この世界のどこか」にあるのだろうか?
ところで、「学校に行くこと」もすでに一つの「症状」であると言えよう。人間は「自然には学校に行かない」ものなのである。すなわちそれは「社会的」に生じている現象=症状なのだ。そして社会とはそもそも病なのであるならば、そのような現象は自然の観点から見れば明らかに「異常なこと」なのである。
しかし学校は「その異常を全ての人間に適用することで正常化=自然化しよう」というわけだ。これは、何とも恐るべき企みではないか?
さらに言えば、学校化とは「この病なしで人は生きていくことができず、この病の中でしか人が生きていくことができないようにしていくような病」であると言える。「この病自ら」が人々をそのように仕向けていくのだ。ゆえにこの病は、人間にとっては明らかに「死に至る病」となる。つまり「この病を失うこと」は、人間にとってすなわち「死を意味すること」なのであり、またその意味でこの病は、「それを患った人の、その死をもって終わるより他はない病」なのだ。
この病が今まさに、全人類を覆い尽くしているのである。あなたも私も当然この病に冒されており、この病の真っ只中を、しかしそれとは気づかずに今も現に生きているのだ。
〈つづく〉
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