脱学校的人間(新編集版)

ササキ・シゲロー

脱学校的人間(新編集版)〈1〉

 人間にとって、「学校」とは一体何なのだろうか?

 たとえば、「社会が学校化している」などと言われる。しかし、もしそれがただ単に「学校化した社会とは要するに、あたかも学校の中にいるかのような社会のことだ」などというように考えられているものだとするならば、あまりに短絡的で間の抜けた認識だと言う他はない。あるいはもし「もともと社会はそうではなかったはずなのに、今ではまるで学校の中にいるかのようなものに変わってしまった」などというように、いかにも感性的かつ感傷的に嘆いてみせるのも、いささか自己本位が過ぎる勘違いなのではないかと思わずにいられない。

 たしかに時として社会の中でなされていることが、「まるで学校の中でしていることのようだ」というように想起されることがあるのかもしれない。しかしそれは別に、それまでは社会の外で生じていた「学校的なもの」が、いつしかしだいに社会の中へと入り込んできた、というようなことなのでは全くない。むしろそういった「学校化した社会=学校のような社会」という一般的な印象は、社会の中でそもそもなされていたことを「学校的な行動様式」において再イメージしているのにすぎないのだ。であるならばむしろ、「社会の中でそもそもなされていたことを、学校的な行動様式においてでしか再イメージすることができない」という一般的な認識の形式については、それ自体すでに「学校化している」のだと言ってもよいだろう。

 あえて言うならば、社会とはそもそも学校的なのである。言い換えれば「学校化」とは、社会の中にそもそも潜む「学校的な側面」が再現前化されているのにすぎないのだ。そもそも学校的だった社会が、自らの学校性を表現するために現実の学校を呼び起こした。ゆえに現実の学校というものは、そもそもから学校的であった社会の、その具体的な機能および構造の現実的な反映なのである。


 たとえば「社会や国をよくしよう」などと考えるとき、人はたいてい「教育の充実」をまず考えるだろう。それはある意味当然のことだと言える。「教育」とは本質的に、そういうときにこそ呼び出されるものである。というより、それ以外において「教育」が社会的に呼び起こされる必要も機会もないのだ。

 「教育」とはそもそもとして、社会の機能的なツールなのである。ゆえにそれを呼び起こし、かつ用いる主体は、必然的に「社会」なのだ。自らの充実のために何らかのツールを用いる。これは至極当然のことであろう。しかしもしも、何らかの主体的な立場を有するものが、その主体性を維持するために何らかの外的なツールを必要とし、なおかつ「それなしには自らを充実しえない」のだとしたら、どうなのだろうか?自らの充実をはかるために用いていたはずのツールに、それを用いる主体が従属するという転倒が、ここでは起こることになるだろう。

 ところが社会とは、そもそもそういったツールなしには、自らとして充足しえないようになっているのである。なぜなら社会はそもそも「構造そのもの」だからであり「機能そのもの」だからである、言い換えると社会とは「入れ物そのもの」なのだ。とするならば、そのような社会が「主体となる」ということ自体、本来としては矛盾なのだが。

 社会とは「空虚な器そのもの」であり、それ自体において満たされるということがない。自らに由来する何ものによっても満たされない社会は、自らによって自らを維持することができない。ゆえに自らを充実させるべく必要としたツールに自ら従属していくというこの転倒は、むしろ社会が自らを維持するために自ら進んで必要としていることなのだ。要するに「社会の学校化」とは、「社会自らが欲求していること」なのである。それなしに社会は、自ら社会たりえないのだ。


 ところで社会にとって「よい」と言えるような状態というのは、一体どういうことになるのだろうか?

 それは言うまでもなく、自らが不安なく維持されることである。それが果たされるのであるならば、たとえ自らが用いたツールに自らを従属させることも、何らためらうことではない。何ならいっそ「社会は教育のツールである」ということであっても、社会自身にとって全く不都合なことではないのである。あるいは「社会とは教育が展開される環境であるのにすぎない」ということであってさえも、社会自身にとってはそこに思い煩うところなど何一つとしてないのだ。むしろそれによって社会は「教育の中で何ら不安なく維持される」ことになるであろう。これは社会それ自体が「空虚であること」の利点である。

 このことは反対に、「教育の側」からもまた同様に言えるところとなる。要するに社会も教育も双方が自らを維持するために、互いを呼び合い互いに依存し合っているのだ。


〈つづく〉

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