第34話・ベルサザの正体
「きみは勇敢だという事だよ。実際、父やロミオもモンタギュー家の、キャピュレット家への反発を和らげようとしたけど、上手く行かなくてさ。口うるさい爺さんどもが、何やかんやと口出ししてきて邪魔するし、困り果てていたんだ。僕だって両家についてはこの先、分かり合う事なんてできっこないと決めつけていた。自分では何もしないくせに、諦めていたんだ」
「両家の確執は代々続いて来たと聞くから、難しいとわたしも思っていたわ。今回上手くいったのはたまたまかも知れないわ」
「それでも行動を起こそうとしなかった僕よりは、きみは勇気があると思うよ」
「そんなに褒められても何も出ないわよ。唐揚げぐらいは奮発するけど?」
「やったぁ。きみの作る唐揚げは最高だから楽しみだよ。僕にとってはどんなご褒美よりも嬉しいな」
照れ隠しに唐揚げ奢ると言ったのに、ベルサザは本気で受け取って楽しみにしているようなので、今夜のメニューは唐揚げにすることにした。
「それにしても前世の記憶があるからと言っても上手く行かないものね。わたしとしては、ジュリエットがまともに育ってくれていて、ロミオに出会い、愛を育んで、いがみ合う両家が仲直りして、二人は両家に望まれて結婚するようなハッピーエンドを望んでいたのだけど……」
「ロミオは女性全般、苦手としているからね」
前世の記憶があっても宛てにならないものねと呟けば、ベルサザが仕方ないよと慰めてくれた。
「あれ? あなた、知っていたの?」
「僕は一応、あいつの兄だよ。これは家族とあいつの恋人しか知らない秘密だ。それをロミオがきみに明かしたと言うことは、あいつはきみに気を許していると言うことだな」
ロミオが同性愛者なことを、どうしてベルサザが知っているのかと聞けば、自分を誰だと思っている? と、言葉が返って来た。
「モンタギュー家としても僕ら兄弟がきみを認めているし、きみの功績をたたえてヴェローナ大公殿下が、きみと甥のパリスとの婚姻を望んでいる。この手を取ってもらえませんか? ロザライン」
ベルサザがその場に跪いて手を差し伸べてきた。ロマーノ小父さまと同じ、美しい琥珀色の瞳がこちらを見上げていた。貴公子然とする美しい所作に見惚れてしまった。
「……? ベル。どういう意味? あなたはロミオのお兄さんよね? パリスってどういうこと?」
「僕の本当の名前はパリス。ヴァローナ大公殿下の若くして亡くなった弟の息子でもある。ベルサザは仮の名だよ。母は僕を身籠もったまま、モンタギュー家に嫁いだ」
「パリスさま……! そうとは知らずに今まで失礼をしました」
ベルサザは、ロマーノ小父さまの甥っ子だった? わたしは何も知らずに彼を家族の一員として扱ってきた。不敬な態度を取っていたことになる。青ざめたわたしを見てベルは朗らかに笑った。
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