第33話・自業自得
わたしの告白に、ベルサザは驚愕していた。当然の反応だと思う。この世界で転生は信じられてないのだから。やはり驚くよねと思いながらも、真実なのだと伝えようとした。
「信じられないのは無理もないと思うけど、本当の話よ」
「いや、きみのことは信じているよ。それで?」
「そのお話しのストーリーによると、モンタギュー家と、キャピュレット家は代々対立していた。モンタギュー家の子息であるロミオは、キャピュレット家の令嬢のジュリエットに出会い、お互い惹かれあうの。二人は物語の主人公達で、ロレンス修道僧を頼り秘密結婚をする。だけどロミオが、街中の抗争に巻き込まれて、友人を殺されたことに逆上して、キャピュレット家のティボルトを殺してしまい、追放の罪に処されて、ジュリエットには大公の甥との縁談が持ち上がる」
「壮絶なストーリーだね。ティボルトをロミオが殺すなんて想像も出来ないけど……」
「物語の中のお話しだから、現実を生きているだけにピンとこないかも知れない」
「現実に起きなくて良かったよ。ロミオに殺人なんて犯させたくないからね。その後、ジュリエットはどうしたのかな?」
「ジュリエットは縁談が嫌でロレンス修道僧を頼ったわ」
「ロレンス修道僧は、彼女に協力したのかい?」
ロレンス修道僧本人を知るベルサザは、物語の中では彼が彼女の言い分を信じて協力したのかと聞いてきた。
「ええ。ロレンス修道僧は、仮死状態になるという薬を使って二人を逃す計画を立てた。ところがその計画が追放されていたロミオに上手く伝わってなかったのよ。その為、悲劇を招くの。ジュリエットが死んだと人伝に聞いてお墓にやって来た彼は、墓参りに来ていたジュリエットの縁談相手パリスと決闘して殺してしまい、彼女の墓の前で劇薬を飲んで自殺してしまった。その直後に目覚めたジュリエットは、彼が死んでいるのを見て、彼の短剣で後追い自殺しをする」
「何とも悲惨な話だな。実際に起こらなくて本当に良かった」
「前世のわたしが生きていた世界では、恋愛悲劇として知られていたわ。題名はロミオとジュリエット。二人の死に悲観した両家は、二人の死の真相を知って和解する。それだけが救いだった」
「そうか、それできみは前世の記憶が蘇ったことで、両家を和解させることに躍起になっていたのか?」
ベルサザが納得した様子をみせた。
「そうよ。わたしが前世を思い出したのは7歳の頃で、目の前には4歳のジュリエットがいたから。その頃はわたし達、非常に仲が良かったの。わたしは実の妹のように思っていた。だからこの可愛い従妹の未来を知って絶望した。まさか運命の恋人がモンタギュー家の悪童になっていると思わなかったし。それでもロミオと出会い、その後、彼の悪評を聞かなくなって安心していたら、その悪童ロミオの方が別人だったなんてね。驚いたわ」
「それについては悪かった。僕が弟の名前を騙っていたせいで誤解させてしまった。ごめん」
「まぁ、でも結果、オーライよね? 死人を出さなかっただけ良いと思った方が良いかしら? あの二人に関して思う所はあるけど」
ストーリー通りなら、ロミオの友人や、ティボルト、そしてロミオと、ジュリエットが死んでいた。そうなったら悔やんでも悔やみきれないところだ。
「ジュリエットと、ティボルトのことは彼らの自業自得だ。例え、きみの前世の記憶があろうと無かろうと、彼らのあの様子では良い結果を生まなかったと思うよ。それにきみのおかげでロミオは犯罪者にならなくて済んだ」
ありがとうと、ベルサザに頭を下げられた。
「そんな、あなたに頭を下げてもらうようなことではないわ」
「いいや、きみが僕をロミオと誤解していたとしても、荒れていた僕を更生させて、敵対しあうモンタギュー家や、キャピュレット家の諍いを治めたのは凄い」
「そうかな?」
「なかなか他の人では出来ないことだよ。厄介事に関わろうとする人は、そんなにいないしね」
「それってわたしがお人好し過ぎるって言いたいの?」
ベルサザを軽く睨むと、違うと笑われた。
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