第35話・ベルはロマーノ小父さまの甥でした


「あ。止めてよ。真相を知ったからと言って態度を変えられると困る。僕の正式名はパリスだけど、ベルサザとしての暮らしを望んでいる。今まで通りの態度で接して欲しいな。ロザリー」

「は、はい……」


 急に身近に感じられていたベルサザが、名乗りを上げた瞬間に遠い存在のように思われた。でも、彼の態度は変わらなかった。それに安心した。


「それで返事は? ロザリーは、僕のことが嫌い?」

「ベルのことは嫌いじゃないし、プロポーズも嬉しいけれど、でも……大公殿下の甥だなんて……」

「身分のことなら気にしなくて良いよ。僕は地方の貧乏貴族の三男坊で、ここに婿入りの予定で話がついているから」

「いつの間に?」

「ここに来た時から。いや、オヤジさんに認められた時からかな?」

「それってかなり前じゃない。でも、わたしには一応、許婚がいたのによくお父さまが許したわね?」

「オヤジさんはあいつとの婚約を認めてなかったよ。紙一枚の契約だから、ティボルトがあんな調子だと、いつか破談になるだろうからそれまで待ってやってくれるか? って、言っていたし」


 知らないうちに外堀は埋められていたらしい。父は前々からティボルトを良く思ってなかったってこと? そんなわたしに出来たことは頷くくらいだ。


「ふつつか者ですが、どうぞ宜しくお願い致します」

「任せて。きみのことは生涯かけて幸せにしてみせる」

「ありがとう。ベル。じゃなかったパリス?」

「ベルでいいよ。パリスは僕にとっても馴染みのない名前になってきている」


 わたし達はその日のうちに父に報告し、婚約する流れとなった。ロマーノ小父さまも大喜びで、すぐにお祝いに駆けつけた。


「やったな。パリス。いや、今はベルか」

「伯父上、騒がしいですよ」

「これが喜ばずにいられるか。エスカラスの息子がようやく……」


 おいおいと泣き始めるロマーノ小父さまに、父は呆れ顔だ。


「お父さまはベルがロマーノ小父さまの甥って知っていたの?」

「ああ。ロマーノからはちょくちょく愚痴を零されていたからな。エスカラスの忘れ形見の息子が悪童に育ってしまった、どうしようとか、里子に出されたが皆と上手くやれるだろうか? とか、田舎だと目が届かないから視察の途中で、ひとっ走り見に行ってくれと無茶ぶりされたこともあったしな」


 父は遠い目をした。ベルサザは苦笑した。


「オヤジさん、お手数かけて申し訳ありませんでした」

「私も心配した。おまえが悪童で有名だった時には、ヒヤヒヤした。もしも、おまえの素性がバレたなら大変な事になるからな」


 父の一言で、これはモンタギュー家と、キャピュレット家の諍いだけでは済まされない領域の、大問題になるところだったのかと改めて思い知らされた。


「まあ、きみたちが結ばれてこちらとしては願ったり叶ったりだよ。ロザリー、ベルのことは頼んだよ」


 ロマーノ小父さまは、ホッとした笑みを浮かべていた。小父さまと父はお酒を開けるペースが速かった。このままだと深夜コースかな? と、思いながら貯蔵庫に向かおうとしたら、ベルサザに外に連れ出された。

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