第10話・許婚の仲を邪魔するなんて無粋でしょう?
「ロザリーお従姉(ねえ)さま」
「ジュリエット」
壇上からこちらが見えていたのだろう。彼女はティボルトと共に近づいてきた。声をかけられるとは思わなかったから驚いた。
「花娘、おめでとう。ジュリエット」
「ありがとう、お従姉さま。そちらの御方は?」
「我が家の居候のベルザサよ。青い鳥騎士団に所属しているわ」
取りあえず花娘に選ばれたことに、お祝いの言葉を述べると、ジュリエットは、わたしの隣にいたベルサザに目を留めた。彼が気になるらしい。じっと見つめてくる。それに不安を覚えた。
ベルサザは、見目の良い方だ。わたしと接触を避けてきていたジュリエットが、わざわざ声をかけてくるなんてそこに何か意図があるとしか思えなかった。
「はじめまして。ベルサザさま。ロザリーお従姉さまの従妹のジュリエットです」
「はじめまして」
愛想良く挨拶するジュリエットに対し、ベルサザは名乗りもせず不機嫌に応じた。
「まあ、青い鳥騎士団の方なのですか? 今度、見学に行っても良いですか?」
「別に構わないと思いますが、その場合は大公さまの許可が必要になるかと思いますので、まず先にご当主さまの申請許可証を発行してもらって下さい」
ベルサザは事務的に応じる。勝手に来るな、当主を通して大公の許可をもらえと無愛想にも言い放つ。その態度は冷たく、見ているこちらがヒヤヒヤした。
「ロザリーお従姉さまとはどのようなご関係で? もし、良かったらこの後、二人でお話ししませんか?」
「ジュリ。失礼だぞ」
ベルサザが気のない素振りを見せても、ジュリエットはめげなかった。何を思ったのか、ベルサザの腕にいきなり自分の腕を絡めてくる。その行動には皆が唖然とし、さすがのベルサザも目を剥いていた。それをティボルトが注意した。
「ティーボったら妬いているの? ティーボには、ロザリーお従姉さまという素敵な許婚がいるじゃない。たまにはお従妹さまとデートでもしたら?」
その言葉に周囲は固まった。この場にいる従妹(ジュリエット)と許婚(ティボルト)以外のメンバーには、わたしとティボルトの関係や、二人とは7年前に絶交となっている経緯を話してあったので、皆はジュリエットの言葉に信じられないと言った様子を見せた。ジュリエットは、7年前にわたしに言い渡した絶交がなかったかのように親しい従妹の顔に戻っていた。わたしは先月までは、ジュリエットと仲直りしたいと望んでいたけど、すでに諦めていたのもあって、彼女の態度に呆れ、喜べなかった。
ティボルトはなんとも言えないような顔をしてみせ、ジュリエットは無邪気を装っているのか、「それがいいわ。そうしましょう」と、笑みを浮かべてベルサザの腕を引く。
「許婚の仲を邪魔するなんて無粋でしょう? ベルサザさま、わたしに付き合って下さらない?」
「へぇ、ジュリエット嬢は、ティボルト卿がロザリーの許婚だとご存じだったのですか?」
「あら、お従姉さまのことを愛称で呼ばれているのね?そんなに仲が宜しいの?」
ベルザサの意地の悪い質問に、ジュリエットは質問で返す。誤魔化されたような気がしないでもない。でも、ベルサザは追及の手を緩める気にはならなかったようだ。
「あなた方も愛称で呼び合っていますよね? 主従の関係にしては距離が近すぎる気がしますが。まるで恋人同士のようだ。ロザリーは、初対面の相手に無理矢理腕を組むような、淑女にしては眉を顰められるようなはしたない行動はしませんし、私にも節度を持った態度で接してくれています。仮にも許婚のいる身だからと言って。しかし、ジュリエット嬢はそうではないようですね?」
ベルサザは眉を潜めた。ベルサザに冷たい目を向けられて、ジュリエットは慌てて腕を放す。わたしはちょっとだけ胸がすく思いがした。
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