第11話・性悪女でごめんなさい



 

「ティボルト卿は有名ですよね。キャピュレット伯爵家の狂犬と言えば、あなたのことだと誰もが知っている。どこを歩いていても注目されるし、皆があなた方の行動に目を光らせている。我々のもとにも色々と情報が入ってきていますよ。最近の話では、あなたが最近、ロザリー嬢に似た女性と、公園で親密な様子だったと言うのがありました」


ベルサザの言葉に、ティボルトは渋面を作った。彼は悪目立ちしていた。そのことは自覚があったのだろうけど、まさか青い鳥騎士団に「要注意人物」と、目を付けられているとは思わなかったのだろう。

その上、ジュリエットと親密な仲であることも知っていると告げられて何も言えずにいた。その隣でジュリエットは、抗議の声を上げた。


「藪から棒に何です? 嘘です。デマですわ。私達が公園で親密にしていただなんて。誰がそのようなことを? 失礼よ」

「認めるのですね? 私はロザリー嬢に似た女性としか言っていませんよ。誰もあなたのこととは言ってないのに」

「でもこの場でそのような物言いをされたなら、私のこととしか思えないでしょう? 紛らわしい言い方は止して下さる?」


ジュリエットは不機嫌な様子を露わにした。ベルサザを睨み付ける。心当たりがなければ、そのような態度は取らないと思う。ベルザサは言いがかりを付けたいわけではない。彼も実際、見聞きしたので言える事だ。彼女はそれを知らない。


わたしは浅く息を吐いた。


「あなた達は、運命の恋人なんですってね」

「えっ?」


わたしの言葉に反応を示したのはティボルトで、ジュリエットは「何のことかしら?」と、惚けていた。その様子を見てあの御方を思い出した。


「あなたの家の侍女達が、噂しているのを偶然、耳にしたの。ティボルトとジュリエットさまは想い合っているのに、結ばれるのは叶わないなんて可哀相だって。性悪女のロザラインが邪魔している為に、二人は結ばれない運命だってね。ごめんなさいね。性悪女で」


 わたしはこの話を先月、メテオから聞いた。メテオの姉アニーが、彼の前で「ああ、お可哀想なジュリエットさま」と、嘆いていたそうだ。メテオの話では、その話が一部の侍女の間で、まことしやかに囁かれ、密かにティボルトとの仲を応援する会があるらしい。

初めその話を聞いた時、馬鹿馬鹿しいと思ったし、ジュリエットを悲劇のヒロインに見立てて、アニーは一体、何をしたいのかと思っていた。


ところがその話を聞いた翌日に、その二人を目撃したことで、それは本当だったと思い知らされることになった。たまたま街中を巡回していたベルサザと行き会い、立ち話をしていたら、二人が仲良く手を繋いで歩いているのを目撃したのだ。それは護衛と、その対象にしては親密過ぎた。

しかも人の目を気にせず体を寄せ合って微笑みあい、顔を寄せては、どちらともなくキスをしているではないか。二人の人目を気にしない行動に驚いた。まさかジュリエットがティボルトとだなんて。嘘でしょう? 信じられなくて、白昼夢でも見ているのではないかと思った。

ジュリエットはロミオと出会って恋に落ちるはずなのに、どうしてこうなった? と、しか思えなかった。


愕然とするわたしの肩をベルサザが叩いてくれなかったら、いつまでも呆けていたかも知れない。あの日のショックは、強烈すぎて未だに信じられない思いだ。


「な、何を言い出すのかと思ったら、違うのよ。ロザリーお従姉(ねえ)さま。それは何かの間違いで……」

「別に良いのよ。ジュリエット」

「お従姉さま?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る