第14話〜勇者も大変な件2〜

———ここは、タルタロスの中心“塔”のエントランス。色々な迷宮の案内が貼り紙されている掲示板の前に、成り立て勇者3人がいた。


 「ロン、ここはどうだ?」


 「そこは、入場料が高いんだよなー」


 「ロン、ここはどう?」


 「そこもちょっと高いし、あんまり評判良くないんだよなー」


 「・・・」


 ハリオ、エマ、そしてロンの3人は悩んでいた。

勇者になって、半年が過ぎたが、未だにランクは“1”のまま...

 

 つまり、第二階層へは、まだ上がれないのだった。巷では、第一階層の迷宮を3回ほどクリアしていれば、第二階層に行けると言われているのだが、未だに、迷宮をクリアできていなかった3人。手持ちのお金も度重なる迷宮挑戦で常に金欠状態であった。


 勇者や魔人に人気のSNS”Mayotterマヨッターを開きながら第一階層の迷宮情報を検索する。


 「第一階層で手こずってます泣。お金も無いんですが、オススメとかありますか?」


 ロンがそう呟くが、馬鹿にしたようなコメントがつく。


 「第一階層で手こずる?第一階層の迷宮なんてどこも一緒じゃん笑」

 「もう勇者辞めちゃえば??」

 「ウケる笑。おすすめしたどころでだな笑笑」


 などなど、辛辣な言葉を見て肩を落とすロン。


 エマも同じく、Mayotter上で呟く。すると、ロンの時とは、対照的なコメントが次々に届いた。


 「第一階層は、しっかり基本を抑える事が大事ですよ!アイテム準備とかパーティーの役割とかしっかり決めてからいけば、難しくはないはずです!」

 「ゴンゾーチャンネルのさんがボスやってる迷宮安くていいんじゃない?」

 「さんとこ!弟が安いし、結構簡単って言ってた!」

などなど、それを見た3人は、ほぼ同時にため息を吐き、肩を落とした。


 「はぁ〜。ここしかないかぁ。」


 

 3人は、渋々と“ドリームラビリンス”運営の初心者勇者用迷宮の前にいた。ロンたち3人は、この迷宮にすでに5回はトライしているが、まだ最初の通路を抜けた事がない。


 「まあ、ここだよな...今日こそは!」


 ハリオが拳を振り上げて、気合いを入れようとするがその拳は、僅かに震えている。


 「とりあえず、あの骸骨よ!骸骨を倒せば、なんとかなるわ!!」


 エマも震えているが、ハリオに続く。


 「よし!アイテムは、ちゃんと持ったぞ!!が、頑張るぞー!」


 3人が足並みを揃えて、迷宮へ入っていく。

もう見慣れた洞窟のような壁、地面、天井。そして、この通路を進むと骸骨スケルトンが現れる。武器を構えながら進む。先頭は、ロン。


 ちなみに3人とも足が少し震えている。バイトで貯めたお金を毎月1、2回の迷宮挑戦へと使っている。だが、クリアできない事でお金がどんどん減っていく。今回は、失敗できない。


 3人とも同じ想いで通路を進む。カチカチと骨を鳴らしながら、骸骨スケルトンが3体走ってくる。


 「や、や、やっぱり無理だぁーーー!!」


 「だ、ダメよ!!」


 「ロン、に、逃げるな!本当にお金がもう無いんだ!!」


 逃げようとするロンを力づくで止めるエマとハリオ。迫る骸骨スケルトン。勇気を出して、エマが杖を構える。目を閉じて、骸骨たちを見ないようにし、呪文を唱えた。


 「も、燃えよ炎!飛んでけ!飛んでけ!ファイアボーーーーール!」


 直撃は.....しなかったが、炎の球が骸骨スケルトンの足元に当たる。骸骨スケルトンが炎に驚いてるのを見て、ハリオは、剣を振り回しながら突撃した。


 運良くハリオの剣先が、骸骨スケルトンに当たり、カラカラと音を立てて、骨が地面へと転がる。


 「うわぁーーーーーーーーーー!」

 「うわぁあーーーーーーーーー!」


 ロンとエマも剣を、杖を振り回して通路を駆け抜ける。


 「うわーーーーーーーー!」

 「うわぁーーーーーーー!」

 「うわぁあーーーーーー!」


 これにハリオも加わり、3人とも無我夢中で武器を振り回しながら、通路を駆け抜けた。途中、新しく骸骨スケルトンと鉢合わせてもお構い無し。


 3人ともほとんど目を開いていなかった....




———— 従業員部屋の監視モニターを今日も勇者たちを応援しながら見ているオブライエンは、画面を見て興奮していた。


「ノーマンさん!ノーマンさん!何度も来てくれている勇者さん達が通路を抜けましたよ!!すごい!やっぱり、勇者は違うなー!」


 「ん?」


 (これ、ただ突っ込んでるだけじゃ....あ。今日、罠のメンテナンスしたまま、作動させるのを忘れていた....不覚...)


 ノーマンは、自慢の槍が横から勇者を串刺しにする罠や毒ガスの罠を今日は、作動させていなかった事を思い出し、肩を落とす。


 「がんばれ!がんばれ!がんばれ!もうちょっとでゴンゾーさんの部屋だ!がんばれ!」


 監視モニターにかじりつきながら、拳に力を入れるオブライエン。


 すると、ドカンっと音を立てて、ロンたち3人は壁に衝突した。


 「いてぇー。」


 「ちょっと重いから、早く退いてよ!」


 3人が体を起こすと、前に扉を見つけた。

それは、とてもそこがゴール、ボスがいる部屋とは思えない質素な扉であった。


 「ねえ...二人とも!ここってもしかして、ボスの部屋じゃない??私たちやったんだわ!」


 「おーーー!!やったぞぉ!やったぞぉ!おい!ロンも起き上がって見てみろよ!」


 ロンは、落ちた眼鏡を拾うと目の前を見る。


 「やった!やったんだ!僕らは、やっぱり勇者だったんだ!!」


 肩を組み合い、喜ぶ3人。そして、それを監視モニターで見て、号泣するオブライエン。


 (多分、オブも勇者に選ばれていたら、こいつらみたいだったんだろーな....良かったな。オブ!)


 ロンは、立ち上がり先程とは、見間違えるような顔つきで言葉を放つ。


 「ハリオ!エマ!やっぱり、僕らは選ばれた勇者だ!あの凶悪な骸骨たちを薙ぎ倒し、とうとうここまで来た!この扉の奥には、あのがいる!!だが、今の僕らの敵ではない!!いくぞぉー!」


 そう言うと、思いっきり扉を開けるロン。それに続くエマとハリオ。


 「みなさん、こんにちは!ゴンゾーチャンネルのゴンゾーです!今日の企画は、“迷宮のボスがボス部屋で———」


 「ガシャン!!!!(扉が勢いよく開く音)」


 「ボスよ!!この勇者である僕らと———」


 「てめーら!せっかくの動画のオープニング録ってる最中に!!」


 「ひぃーーーーーー!」


 「メテオラスーパーファイアー燃え燃えファイアーアタッーーーーーーーーーク!!!」


 ゴンゾーは、火炎を口から吐きながら、収録を邪魔した3人に全力で殴りかかり、拳がロンの顔面をとらえる。


 「メキメキメキメキッ!」


 ゴンゾーの拳は、ロンの顔面にめり込み、そのままロンは、壁へと吹っ飛んだ。それでもゴンゾーの怒りは収まらず、腰を抜かしたエマとハリオに襲い掛かった。



 「ゴンゾーさん!!ボス勤務中は、Meikyu Tubeの動画作成はダメって言ったじゃないですか!?」


 「すまんすまん!だってよー!今毎日動画やってるからしゃーないだろぉ!」


 「はぁー。せっかく、あの勇者たちがクリアできると思ったのに....」


 「まあ、それは、すまんすまん!だって、あまりにも勢いよく入ってくるもんだからよー」


 ゴンゾーとオブライエンのやりとりを横で見ているノーマンは、ふと思った。


 (龍人ドラゴノイドって結構強いんだな.....)



 塔のエントランス。迷宮で死んだ勇者は、エントランス横の部屋で生き返る。


 「はあ....今回は、行けると思ったんだけどなー」

 

 ハリオが残念そうにしている。


 「まあ、でもボスの部屋まで行ったんだから、成長したわよ!」


 エマは、それを励まそうとしている。


 「二人とも!そんなネガティブに考えちゃダメだよ!僕らは、選ばれし勇者なんだから!」


 ロンは、何故か自信に漲っている。


 「じゃあ、私この後バイトだから、また挑戦する日決まったら連絡して。バイバーイ。」


 「あっ。俺もだ。ロンもバイトして稼いどけよな。良い防具でも買わねえとあのボスは、倒せないぞ。じゃあな。」


 「あ、ああ。そうだね。」


 そんな3人は、再びバイトをしてお金を貯めて挑戦しようと心に誓うのであった。


——— 3人の勇者が迷宮攻略する日は、結構遠いかもしれない....














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