第11話〜迷宮もマンネリ化は、深刻だ〜

———— 迷宮会社“ドリームラビリンス”の運営する成り立て勇者用迷宮、


 片手に立派な剣を持つ少年。その隣には、大きな盾を持ち、龍人ドラゴノイドの尻尾攻撃や火炎攻撃を防ぐ少年。後ろには、杖を構え、2人をサポートする少女。


 


 「はあー今日も働いたなー!バトルの後の煙草は美味い美味い!」


 「ゴンゾーさんお疲れ様です。今日も結構、ボス部屋まで来てましたね!」


 「ああ!最近おかげさまで筋肉が戻ってきたわ!どうだ?この力こぶ!」


 ゴンゾーは、ポーズを決め、自分の上腕二頭筋を盛り上げて自慢そうな笑みを浮かべている。


 エンカウント率が高いとの事で、骸骨スケルトンの数を減らしたところ、徐々にボス部屋まで来る勇者パーティーが増えてきた。


 そのおかげか、口コミも前より多くなり、「初心者、初迷宮挑戦ならここ!」みたいな、触れ込みもつき、先週、1日50パーティーの来勇者数を達成した。


 「だけど、最近そこから数は伸びませんねーー。」


 オブライエンは、来勇者数が記録された記録簿を見ながら残念そうに呟く。


 「その事なんだが、オブ。段々とマンネリ化が起きているかもしれない。」


 「マンネリ化ですか?.....というと?」


 「勇者は、基本クリアした迷宮には、よっぽどの事がないとリピートしない。罠の位置や魔物の特徴、通路のマッピングが終わってしまえば、行く気にもならないからな。」


 ノーマンは、コーヒーを飲みながらモニターを見つめる。


 「確かに、勇者は常に新しい迷宮を追い求める者たちって聞きますもんね。」


 「ああ。だから、イベントでもやろうと思ってな。」


 「おおっ!!イベントですか!!どんなやつです?」


 オブライエンは、興奮しているのか、鼻息を荒く鳴らしながら、ノーマンへと迫る。


 「ん...ああ、秘密の部屋にだな....」


 (オブの顔、近いな.....)


 「少しレアなアイテムを入れて、それを告知するとかどうかなと思ってな。」


 「いいじゃないですか!!あの部屋、まだ誰も見つけてないですもんね!!でも、アイテムはどうするんですか?」


 「まあ、最近2人のおかげでだいぶお金ができてきたからな。“赤い宝石”とかどうだろうか。」


 「“赤い宝石”って結構高いんじゃないです?」


 「実は、知り合いで安く何個か売ってくれる人がいてな。」


 「それならいいじゃないですか!僕は、ノーマンさんの案に大賛成ですよ!この迷宮のどこかの秘密部屋に眠る“赤い宝石”って感じで打ち出せば、間違いなく勇者たち来ますよ!!」


 (タイトルそのまんまじゃないか?)


 「ん?2人ともなんの話してるんだ?」


 煙草を吸い終えてゴンゾーが戻ってきた。

ノーマンがイベントの話をするとゴンゾーも両手を挙げて同意していた。


 翌日.....ノーマンは、知り合いのアイテム屋コルドーに“赤い宝石”3つを安値で売ってもらった。


 ちなみにこの“赤い宝石”。本当にただの赤い宝石なのだが、勇者たちは、何やら武器や防具の錬成に使うらしい。

 普通のアイテム屋で買うと5000タロスぐらいするのだが、今回は、3つで5000タロスという大安売りで手に入れた。


 オブライエンは、ルンルン気分で足取り軽く、お手製の貼り紙を塔のエントラスの掲示板と迷宮入口に貼っていた。


 “迷宮会社ドリームラビリンスの初心者用迷宮にて、秘密の部屋を見つけた勇者に今早い者勝ち3パーティーに『赤い宝石』ゲットのチャンス!!”


 文章も字も稚拙であったが、ゴンゾーもノーマンもオブライエンの喜ぶ顔を見てると言えなかった....


 そんなお手製の貼り紙も意外と効果があり、いつもよりも多い勇者たちが、ノーマンたちの迷宮へと訪れていた。


 「この迷宮に秘密の部屋があるらしいぜ!」

 「うそ?ここってゴンゾーチャンネルのゴンゾーさんがボスの迷宮でしょ?前クリアしたけど、そんなの無かったけどなぁー」


 勇者たちが迷宮の入口でそんな事を言いながら入ってくる。


 「ノーマンさん!大成功じゃないですか!!まだ昼ですけど、もう30パーティーも来てますよ!!」


 オブライエンは、はしゃぎながら入ってくる勇者をカウントしている。


 「でも、なかなか見つけられる勇者いませんね。まだ1パーティーだけですよ?」


 「ああ。」


 (え?反応それだけ?でも気のせいかノーマンさん顔が喜んでないか!?)


「まあ、迷宮職人にとっては、引っかかる罠と見つからない秘密の部屋は、嬉しいもんだよな!それにしても大盛況だな!」


 1バトルを終え、汗をタオルで拭いながらゴンゾーが従業員部屋に入ってきた。


 「そういうものなんですね!でも、確かにノーマンさんの作った秘密部屋良くできてますもんね!」


 「まあな。元々、成り立て勇者用だから他の要素には、力入れられなかったしな。」


 

 そんなこんなでイベントは、大成功であった。


 「皆さん!なんと本日の来勇者数が70パーティーという新記録です!」


 「おお!すげえじゃねえか!!今日は、久々に居酒屋で打ち上げだな!!」


 「そうだな。成功してよかった。今日は、奢りだ。閉店準備したらいくぞ。オブ。メリエンダも呼べたら呼んでいいぞ。」


 「おーーーー!」

 (メリエンダは、あまり呼びたくないけど...」


 気分上々で閉店準備に向かおうとする3人。

 

 「ピンポーーーン!」


 「ん?こんな時間に誰だ。」


 突如、チャイムが鳴った。たまに宅配が来る事はあるが、営業時間が終わったあとになる事は、あまりない。

 気になって、ノーマンはモニターを見ると、そこにはキリッとしたスーツ姿の女性。逆三角形の眼鏡を掛けて、髪の毛を夜会巻きにしている。


 「ん?誰が来たんだ?」


 「ノ、ノーマンさん?」


 ノーマンは、その姿を見ると顔が固まっている。


 ゴンゾーもオブライエンも顔を見合わせ何事かと勘繰っている。


 「まさか、ノーマンさんの元カノとかですかね?」

 「いや、ノーマンさんの年齢を考えると元妻の可能性もあるぞ?」


 するとノーマンは、急に2人の方を向き、声を荒げる。


 「2人とも!!!迷宮監査官だぁ!!!!!」


 「え、えーーーーーー!」


 —— イベントが大成功した3人であったが、またもや問題?が目の前に現れる。


 まだまだ先は、理想の迷宮への道のりは長そうである.....













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