第10話〜エンカウント率は大事です〜

———— タルタロスの塔、第一階層で、迷宮を運営しだしたオブライエンたち。

 集客が足りないとメリエンダから説教されてから、貼り紙作戦、そして、オブライエンが知り合いに頼み、ポーション配りを手配し、開店から一週間、なんとか毎日10パーティーは、来るまでになった。


 従業員室でいつも通り、開店前に集まる3人。


 「さて、まだまだだが、段々と勇者たちも来てくれるようになった。2人ともを見ろ。」


 ノーマンは、そう言うと携帯の画面をオブライエンとゴンゾーへと見せる。


 そこには、“成り立て勇者にオススメ!アイテム必需品詰め合わせパックがもらえる!?”の見出しで先日、登録したダンログのページであった。


 ダンログは、クチコミした勇者が、その迷宮を星3段階で評価するのだが、3名が三つ星評価であった。


 「おーーー!すごい!早速口コミがありますね!どれどれ?

 “骸骨スケルトンの群れが入口付近で来ます。”、

 “ 骸骨スケルトンが得意な方にオススメ”、

 “安いのでお金がない勇者パーティーにはオススメ。だが、骸骨スケルトン嫌いな人はやめた方が良い。”」


 口コミを見て、一度頭の中を整理するオブライエン。


 「なんか、骸骨スケルトンの事ばかりですね......」


 「というかよぉ、お二人さん。あの骸骨たちは、成り立て勇者には、つえぇんじゃねぇのか?」


 ゴンゾーの言葉にオブライエンとノーマンは、確かにと改めて考えてみる。


 「でも、ノーマンさん、骸骨スケルトンって強い魔物なんですかね?」


 「いや、どちらかと言うと弱い分類のはずなんだが...」


 (そもそも、オブが捕獲してこれるわけだしな......)


 「まあ、考えても仕方ねぇけどよ。流石に一週間経って、ボス部屋に来るパーティーが一つもないってのは、成り立て勇者用の迷宮としてどうなんだ?」


 「ゴンゾーさんにしては、珍しくまともな事言いますね。」


 感心したようにゴンゾーをオブライエンは、見つめる。


 「全くだ....ちゃんと考えていたんだな。」


 ノーマンもオブライエンと同じような目で、ゴンゾーを見つめる。


 「なんか失礼な奴らだなぁ!俺だって考えてるわ!」


 「今日来た勇者の結果を見て考えよう。もしかすると、骸骨スケルトンが強いのかもしれないしな。」


 ノーマンの言葉に他2人は、同意し、とりあえず開店の時間を迎えた。


 いつも通りに監視モニターで勇者たちがどんな感じかを見守る3人。


 今日も2、3パーティーが並んでくれている。


 「あっ!危ない!」


 「おい!魔法使い!そこで回復魔法使えよぉー!」


 オブライエンとゴンゾーは、いつもこんな感じに応援したり、助言したり.....まるでテレビでスポーツ観戦をする親父と言った様子である。


 「あーあ。やられちゃったよぉ!全く!最近の若いのは。煙草吸ってくる!」


 「はぁーい!いってらっしゃい!それにしても、ノーマンさんやっぱり骸骨スケルトン強いんじゃないですかねー?」


 「うーーーーん....」


 ノーマンは、よっぽど考え込んでモニターを見ているのか、オブライエンの声に反応が薄い。


 「次のパーティーは、いつものリピーターですね!いつも本当に嬉しいなあー!」


 (いつもすぐやられるけど....いや、やられるってよりは、自滅してる...が正解かな。)


 「やっぱり、このメガネの子失神しちゃった....でも、だいぶ失神するまでの時間が伸びてきましたよね!うんうん!頑張ってる頑張ってる!」


 「......」


 ノーマンは、食い入るようにモニターを見つめている。


 (ノーマンさん間違いなく、僕の話聞いてないな...)


 「で? 2人ともどうだ?今日は、ボスに挑戦する奴は現れそうか?」


 一服終えたゴンゾーがモニターを見る。


 「もう勇者たちいねぇーじゃねぇかよ!!あーー、Meikyu Tubeの動画撮ってくるわ。」


 「はーい。いってらっしゃい。」


 ゴンゾーはMeikyu Tubeの担当を命じられてから、ハマっているらしく、こないだも『迷宮のボスが1日、寝ていたらどうなるか!?』とか動画を出していた。


 最初は、オブライエンとノーマンが「迷宮の信用が無くなる!」とかで怒っていたが、意外にも動画再生数が伸びており、その効果かはわからないが、来客数が伸びたので今では、放置している。


 「エンカウント率が高すぎるのかもな....」


 ノーマンが急に考え込んでいた口を開いた。


 「エンカウント率.....ですか?なんですそれ?」


 「エンカウント率って言うのは、モンスターと遭遇する確率の事だ。エンカウント率が高ければ、モンスターとよく会う。つまり、モンスターが多いから難易度が上がるんだ。

 この迷宮は、そこまで広くない迷宮にも関わらず、骸骨スケルトンとスライムの数が多いのかもしれん。」


 「ほぉー!なるほどですね!確かに、骸骨スケルトンは群れる習性もあるので最初の通路に骸骨スケルトンが群がり過ぎるなぁーとは思っていましたが、それが原因かもですね!!」


 いつものノートにメモを取るオブライエン。


 「じゃあ、骸骨スケルトンの数を減らしましょうか!」


 「いや、一度申請しているから変更するには、もう一度、“塔管”行かなきゃいけない。時間が掛かる。スケルトンを何体かレッドゴーストのいる隠し部屋に移そう。それで数を調整していけばいい。」


 ノーマンの言う事に感心して目を輝かせるオブライエン。


 「ノーマンさん!良い案ですよ!!そしたら今日閉店後に早速やりましょう!何体ぐらいがいいですかね?」


 「ああ。そうだな....5匹ぐらいから始めてみるか。」


 そして、閉店後。


 通路に向かう3人。オブライエンの手には、マハトマーと骸骨スケルトン採集に行った時に貰った麻袋を持っている。


 「最初、オブがお手本見せてくれよ!」


 (骸骨スケルトンを取らなきゃいけないの忘れてた....)


 「ではですね!まず、骸骨スケルトンの足の骨を外して........っていっぱいいるし、無理!!!ぎゃーーーーー。」


 「お、おい!」


 ひとまず、逃げる3人。確かにマハトマーと向かった時は、地面から出てくるのを狙った。そして、一体一体やっていったのだ。

 

 同時に数体もの骸骨スケルトンが向かってきており、勇者ではないオブライエンでは、その中、足の骨だけ外すのは不可能であった。


 「お、おい!オブ、なに逃げてんだよ!!勇者かお前は!」


 (いや、基本的に勇者は逃げないで倒すんだけどな....)


 ノーマンは、心の中でそう思った。


 「おい!オブ!ちょっと俺に教えてみろ!」


 ゴンゾーがそう言うので、マハトマーに教わった通りにゴンゾーに骸骨スケルトン採集のやり方を教えるオブライエン。


 「とりあえず5体でいいんだよな?」


 「はい!5体で大丈夫です!」


 ゴンゾーは、めんどくさそうに骸骨スケルトンたちがいる通路へと足を進める


 後ろで見守る2人。すると.....


 「バシッ!バシッ!バシッーーン!」


 ゴンゾーは、とてつもない速さで骸骨スケルトンたちの骨を次々に麻袋へ入れていく。


 ゴンゾーは、壁を蹴って移動したり、尻尾を使って上手く骨をもぎ取ったりと、さすが腐っても龍人ドラゴノイドである。


 オブライエンもノーマンも感心しっ放しであった。


 「ほらよ!5、間違えて2体余分に取ったから7体分だ。」


 「ゴ、ゴンゾーさん!!見直しましたよ!!すごい!!」


 目をキラキラさせて、飛び跳ねながらオブライエンは、ゴンゾーの手を握っている。


 「よ、よせよ!こんぐらい朝飯前だ!」


 「ゴンゾー。グッジョブだ。」


 ノーマンも彼なりの敬意を表していた。


——— なんとか、骸骨スケルトンを7体捕獲し、迷宮内の魔物の数を減らし、明日からボス部屋に来てくれる勇者を増やす事を狙う“ドリームラビリンス”の3人。


 まだ3人の迷宮構想には、時間がかかりそうである。










 







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