第9話〜勇者も大変な件〜

——— タルタロス第一階層。成り立て勇者は、ここから始まる。現在20個ほどの迷宮が存在する第一階層。

 つい先日、塔の歴史上、迷宮のオープン日に“2パーティー計6名”という空前絶後の大記録を打ち立てた迷宮会社“ドリームラビリンス”の初迷宮。


 そこの従業員室で壁に設置されたモニターを齧り付くように見る3人。


 「がんばれ!がんばれ!もうちょい!」


 「お!あの魔法使い良い動き!!そのまま、俺様の部屋まで来いっ!来いっ!あーーーー!」


 「惜しかったですね。今回のパーティー。」


 「くそー!成り立ての勇者ってこんなレベルなのか?」


 骸骨スケルトンたちにやられる勇者を見て、悔しがるゴンゾー。


 「いつになったらボス部屋に来る勇者が現れるんだ!タバコ吸ってくる!」


 (実際、迷宮は勇者にクリアされない物を作るのが理想なんだけどね.....)


 「でも、ノーマンさん。この迷宮、結構難しいんですかねー。」


 「いや、罠などは、初級だが....」


 2日目。朝の会議でと話し合い、早速、貼り紙作戦を決行した3人だった。


 結果は、開店から6時間経った午後2時の時点で、4パーティー計12名......


 昨日よりかは良いが、貼り紙作戦のおかげかどうかは、わからない数である。


 しかし、挑戦してきた勇者たち...いや、お客様は、ボス部屋に辿り着くどころか、最初の通路でスケルトンたちにやられてしまう。


 ゴンゾーが余りに暇だとうるさいので、3人で応援していたのだった。


 「お!!!!!見てください!また来ましたよ!勇者様たち!」


 「お。でもこのパーティーは、昨日来た奴らじゃないか?」


 「ほんとだ!でも、リピートしてくれるなんて、嬉しすぎますぅ。うぅぅぇーーーん」


 (オブ、どういう感情なんだ.....)


 オブライエンは、嬉しいのか悲しいのか、泣きながらに監視モニターに張り付いている。


 「どしたんだ?おっ!勇者また来たのか!やったじゃねえか!」


 「この方達は、昨日来た方なんですよ。」


 「また来てくれるなんて嬉しいぃじゃねぇか!ぜひ、俺のところまで来て欲しいものだな!」


 3人は、応援しながら監視モニターを見る。


 「オブ。コーヒーミルク多め頼む。」


 モニターを見ながら言うゴンゾー。


 「わかりましたよ。でもなんかあったら教えて下さいね!」


 「ああ、教える教える。」


 (龍人ってもっと気高い魔人なんじゃないのか!)


 


——— ここは、タルタロスの塔。勇者が集いし、聖地。


 【僕は、勇者ロン。二ヶ月前にBONにて勇者に認定された選ばれた者だ。

 昨日、パーティーのハリオとエマと初の迷宮挑戦をしにこの勇者たちの聖地“塔”へ来た。だが、最初に挑戦した迷宮は、難しかったのか、最初の通路で全滅した。今日こそは!】


 「ロン!早くー!先行くわよー!」


 「待っておくれよー。」


 エントランスに入る3人は、掲示板を見て今日いく迷宮を選ぶ。

 

 とんがり帽子を被る可愛らしい女の子エマは、掲示板を見渡す。


 「うーーーん、面白そうな迷宮ないわねー。」


 丸メガネを掛けたオカッパ頭の男の子ロンがある貼り紙を見つけた。


 「エマ、ハリオ。この迷宮はどう?」


 ツンツンの黒髪に我の強そうな顔つきの男の子、ハリオが、ロンが見つけた貼り紙を見る。


 「なになに?“初心者用のダンジョンです。クリアするとなんとアイテム必需品詰め合わせパックが貰えます。ぜひ来て下さい。迷宮会社ドリームラビリンス”?」


 「何この汚い字!しかも文章も稚拙だわ!」


 今年10歳になったばかりのエマは、オブライエンが書いた貼り紙を見て、言葉を吐いた。


 「これって昨日行った迷宮じゃない?」


 ロンが貼り紙を隅々まで見て言う。


 「でも、これ昨日オープンって書いてあるぜ。あの迷宮全然、人居なかったし、オープンって感じじゃなかったけどなー。それにしても、汚ねぇ字。」


 首を傾げてハリオが呟く。


 一通り、張り紙を見てエマが残念そうに呟いた。


 「でも、あそこの迷宮だとして、3000タロスなのが魅力的よね。私たち、お金ないから.....それにしても汚い字。」


 「そうだよね。一回ここ行ってみよう!今は、たくさん挑戦するしかないさ!それにしても文章が変な貼り紙だよね。」


 ロンがそう提案し、3人は、初心者用の迷宮へと向かった。


 「やっぱりここだわ」


 「そうだね。昨日は、最初の通路でスケルトンにやられたから。」


 「そうね!特にハリオ!今日はビビんないでよ!」


 「はぁっ!お、俺かよ!エマだって、腰抜けて動けなかったじゃねーか!魔法使いが骸骨どもにビビってんじゃねぇよ!」


 「はー!ハリオ、あんたお漏らししてた事バラすわよ!」


 「2人ともやめ!さっさといくよ。」


 ロンは、丸メガネをくいっとあげて、先陣を切り、迷宮へ入る。


 迷宮内は、洞窟のように岩で四方八方ができており、ひんやりと冷えた空気が流れている。


 「お、おい。エマ先に行けよ。」


 「あ、あんた男らしくないわね....魔法使いがなんで先頭行かなきゃいけないのよ...」


 「2人とも、そろそろモンスターが出てくるよ。先頭は、僕がいくから、2人は後ろから援護をお願いよ。」


 「お、おう。」

 「ロン、た、頼んだわよ。」


 怖がりながら足を進める3人。


 「カチカチッカチカチッカチカチッ」


 急に3体の骸骨が音を鳴らしながら、通路の奥から走ってくる。


 「も、もう、もうダメだ...」


 先程まで先陣を切っていたロンは、腰が抜けて動けなくなってしまった.....


 「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 ハリオとエマもあまりの恐怖からか、泡を吹いて倒れてしまった。


 骸骨たちは、少し戸惑った様子で勇者3人に攻撃を加える。


 すると、勇者たちの体が白い光に包まれ、迷宮から消えた。


 

迷宮の従業員室でその様子を見ているゴンゾーとノーマン。


 「ゴンゾーさん、コーヒーですよ!ミルク多め!ってリピーター勇者様は?」


 モニターを見回し、勇者の姿を確認するオブライエン。


 「さっ、煙草吸ってこよ。」


 「えっ?」


 ノーマンの顔を見るオブライエン。


 「........」


 ノーマンは、何も言わなかった。


 「ちょっと、ゴンゾーさん!なんかあれば言ってって言ったじゃないですかー!!」


——— 迷宮会社ドリームラビリンスの迷宮運営は、まだまだ壁が多そうだ。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る