第8話〜迷宮運営の肝は、集客?〜

——— タルタロスの居酒屋。

オープン初日を終え、迷宮会社ドリームラビリンスの3名は、メリエンダの罵声に耐えていた。


「あんた達、バカじゃないの!?ただオープンして勇者達が来るわけないじゃないの!2パーティー来てくれただけ奇跡よ!奇跡!!き・せ・きーーーーー!」


 メリエンダは、一通り言い終えたのか席に座り、ビールを一気に飲み干す。


 「あ、あのーメリエンダさま?どうすれば....」


 「なんであんたは、いっつも何も知らないのよ!!」


 オブライエンは、涙目であった。


 するとノーマンが、ビールを一口飲むと言う。


 「集客だな。すまん。ゴンゾーさん、オブ。俺の認識の甘さだ。」


 「ノーマンさん!あんたが頭下げる必要はない!うむ、集客だな!集客!オブ、迷宮運営には、集客が大事なんだ!」


 ゴンゾーは、ドヤ顔で自慢げに言う。


 (この人、絶対そんな事知らないだろ....)


 いじけながらオブライエンは、口を開く。


 「でも、集客って言っても具体的に何をすればいいんですかねー?」


 メリエンダは、おかわりを頼むとまた立ち上がって三人に言う。


 (飲み過ぎじゃない?)


 「いい!?まずは、広告よ!あんたたち、貼り紙とか一枚もやってないでしょ!?信じられないわ!あの後、あんたたちの迷宮の貼り紙なんて一枚も————」


 またメリエンダの説教が始まるのであった。



 翌日、ドリームラビリンスの3人は、ボス部屋で会議をした。


 現在、朝の6時。開店は、8時なのであと2時間ある。


 机を持ってきて、オブライエンは、紙とペンを取り出す。


 「おっほん!2人ともいいですか!?昨日の地獄のようなメリエンダの講義をまとめると基本的に集客は、3つあるようです!」


 紙に文字を書くオブライエン。

ゴンゾーもノーマンも若干の二日酔いである。


 オープン日に2というタルタロス迷宮史上ぶっちぎりの最低記録を出した事でやけ酒した.....いや、半分は、メリエンダのせいでもあるが.......


 「みんな聞いてます?まず一つ目が、“貼り紙作戦”です!迷宮の入り口にこの迷宮は、どんな迷宮なのかを簡潔でいいので書く。あとは、塔のエントランスにこの迷宮についてのポスターを書いて貼る!」


 「それならすぐにできるな。エントランスの掲示板は、確か100タロスぐらい払えば、貼り紙できるはずだ。」


 「はい!なので、もう作ってきました!早速貼りに行きましょう!」


 オブライエンは、昨夜作ったお手製の貼り紙ポスターを見せる。


 とても出来の良い物では無いが、この際仕方ない。


 ゴンゾーは、すっかりダウンしているので放置して、ノーマンとオブライエンは、エントランスに行く。


 「すみません!貼り紙をあそことあそこに貼りたいのですが!」


 オブライエンは、良さそうな掲示板の空きスペースを指差し、受付に勢いよく言う。


 「はい。一枚辺り100タロスになります。」


 2枚貼るので200タロス、ノーマンが受付に払い、早速掲示板に貼るオブライエン。


 「これでよし!では、ノーマンさん!この説明書きを迷宮の入口に貼りましょう!」


 入口にもオブライエンお手製の説明書きを貼るとボス部屋に戻る2人。


 戻ると、ゴンゾーは、求魔人雑誌『ダンジョンワーク』を手に取り、読んでいた。


 「ちょっとゴンゾーさん!!もう辞める気ですか!!」


 オブライエンは、怒りながらゴンゾーの手から『ダンジョンワーク』を取り上げる。


 「ははは。冗談だよ冗談!そんな怒んなって!で、貼り紙は、大丈夫だったのか?」


 (なんか、冗談に感じられない....)


 「まあ、貼り紙と説明書きは、OKです!」


 一度、深呼吸をしてオブライエンは、再び話し始める。


 「二つ目は、ネット媒体を使う!だそうです。例えば、最近だと勇者が迷宮を選ぶ時に使う“ダンログ”というネットに掲載して、挑戦してくれた勇者が、口コミとかを広げてくるサイトがあるらしいです!」


 「“ダンログ”は有名だな。俺もたまに見る。」


 ノーマンがそう言って携帯の画面を見せてきた。


 「ふむふむ!では、ノーマンさん早速登録お願いします!」


 「ああ。やってみる。」


 「次は、SNSで発信するのが良いそうです!今だと“Mayotter“と”Meikyu Tube“ってのが良いそうです!2人とも知ってます?」


 今度は、ゴンゾーが自慢げな顔で喋る。


「Meikyu Tubeはよく暇な時見てるぜ。『装備なしで迷宮行ってみました!』とか『スライムコーラしてみました』とかよく見てるわ。ありゃ面白い!」


 (えっ....なにそれ?スライムコーラってなに?)


 「Mayotterは、勇者とか魔人が適当な事呟くやつだぜ。確かに迷宮の広告してるやつとかたまーにいるな。でも、“こんな勇者が来てうざー”とかな!あれも面白くて暇な時に見るの楽しいんだわ!」


 ケラケラと笑いながらゴンゾーが説明する。


(なにそれ?勇者も魔人もそんな事してるの?てか、勇者SNSとかバリバリやる感じなのか.....)


 戸惑いながらもオブライエンは、話を進める。


 「おっほん!じゃあ、SNS関連はゴンゾーさんお願いします!」


 「えっ!俺か?でもSNS関係は、そんなすぐにできるもんじゃねえぞ?」


 「大丈夫です!今日は、とりあえず貼り紙作戦のみでいきましょう!」


 「お、おう。」


 「続きまして、最後の三つ目!ポーション配りです!」


 「よく街中で見かけるあれか.....」


 「ポーション配りか。」


 ノーマンとゴンゾーの反応は、期待外れといった様子だった。


 「ノーマンさん!そうです!よく街中で見るやつです!ポーションにうちの迷宮の宣伝が書いた紙を巻きつけて、人に配るんです!」


 「ありゃキツイぞ?人もいるしなー。あと効果があるのかイマイチわからん!」


 ゴンゾーが気だるそうに言う。


 「ゴンゾーさん、やった事あるんです?」


 「ああ。昔バイトでどっかの迷宮のポーション配りしたわ。炎天下の中、長時間。ありゃキツかったな。」


 「えっ?魔人ってそんな仕事もあるんです?」


 「お前、派遣会社で働いてたのに知らねぇの?魔人は、よくやるぜ?面接とかもないからやりやすいしな!」


 (迷宮の宣伝を魔人が直接やるの?そんな事ある.....のか?)


 「ま、まあ、とりあえず、メリエンダに教えてもらったこの3つをやりたいと思います!!ポーション配りは、人が必要なので、今日は、貼り紙作戦のみですね!」


 一通り、オブライエンが話終えると既に開店10分前であった。


 「まあ、なんにせよ、やってみてだな。」


 ノーマンは、そう言うと裏の従業員室の椅子に座る。

 椅子の前には、壁にモニターが数台あり、迷宮の中を監視できるようになっている。


 「ノーマンさん、コーヒー入ります?」


 「ああ。頼む。」


 「オブ!俺にも!ミルク多めなー。」


 そして、監視モニターを見ながら勇者たちが来るのを待ち焦がれる3人。


———— 貼り紙作戦、決行初日。そしてまだ僅かオープンから2日目である.....







 

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