6話〜迷宮開店には申請が必要!?〜

——— タルタロス中心に位置する塔。天まで届くかと思えるような高さと塔内に無限に広がるスペースに色々な迷宮が運営されており、この世界の勇者たちが、名誉と地位のため、集まってくる。



 そんな塔の第一階層に小さいながらやっと自分たちのスペースを手に入れて、開店準備に没頭するオブライエンとノーマン。


 この迷宮のボスとして仲間に加わった龍人ドラゴノイドのゴンゾーにオブライエンが、迷宮を案内していた。


 「ゴンゾーさん!ここがボス部屋です!」


「ほー。雰囲気は良いじゃねーか!まあ、強いて言えば、もう少し広い方が良いな!」


 そんな事を言いながらゴンゾーは、ボスの部屋に設置された椅子に座り寛いでいる。


 すると扉が開き、ノーマンが入ってきた。


 「ノーマンさん!紹介しますね!ボスとして働いて頂ける龍人ドラゴノイドのゴンゾーさんです。ゴンゾーさん、こちらがお話ししましたノーマンさんです!」


 「どうも。ノーマンです。宜しくお願いします。」


 「ああ、ゴンゾーだ!こちらこそな。」


 「少し内部を説明しますね。あと宝も見つけたぞ。」


 嬉しそうに言うノーマンに、同じく嬉しそうな表情を浮かべるオブライエン。


 「ホントですか!!やったぁ!これで開店できますね!」


 「いやいや、オブ。まだ“塔管”に申請書や、モンスター労働監督署にも書類提出しないとだ。」


 「そんなあるんですか.....」


 「じゃあ、それまで俺は、迷宮を見て回ってくるぜぇ!そういや、喫煙所ある?」

 

 ゴンゾーがそう言うと、ノーマンが即座に言葉を発した。


 「迷宮内は、禁煙だ!喫煙所は、裏手の角にある!」


 「ひっ!!」


 ゴンゾーは、怯えながらオブライエンに耳打ちする。


 「おい、オブ。優しいって聞いてたが、ノーマンさん怖いじゃねぇか...」


 「はは....迷宮が大好きなんですよ。ちゃんと、喫煙所で吸えば、問題ないです。」


 「そ、そうか....気をつけないと...」


 (てか、ゴンゾーさん.....あんた一応迷宮のボスなんだから、そんな事で怖がらないで....)


 ゴンゾーが煙草を吸いに行っている間に、ノーマンは、裏から大きな木箱をボス部屋に持ってくると木箱を開けた。


 「オブ。これをこの迷宮のメインの宝にしようと思ってな。」


 「お!宝ですね!どれどれ.....これって....」


 木箱の中には、魔法瓶に入った緑、青、赤色の液体、金色の鳥の羽、布に包まれた緑の薬草などが入っていた。


 「そうだ。ポーションに、迷宮脱出用の羽、毒消草。言うなら、

“迷宮必需品詰め合わせパック-初心者用-”だな!」


 「なるほど!確かに、これなら補充も簡単だし、コストも安いし!でも、なんで思いついたんですか?」


 「実はな———」


 ノーマンは、照れ臭そうに経緯を話し始めた。


 知り合いの中古品店に宝を探しに行った時。

 街に成り立てであろう勇者のパーティーが喧嘩をしているのを見た。

 そこでアイテムの使い過ぎについて口論していたのだと言う。


 この世界では、10歳になると、適正試験受ける。 ”BON”【Brave or Not】この試験で勇者に選ばれるとその時点から勇者としての稼業をスタートさせるのだ。


 つまり、成り立ての勇者は、僅か10歳頃から迷宮へと足を踏み入れる。勿論、その年では、お金もなく、アイテムも貴重な物なのだ。


 だから、ノーマンは、宝ではなく、アイテムの詰め合わせが良いのでは?という考えに至ったらしい。


 オブライエンは、感心しながら経緯を聞き、目をキラキラさせていた。


 一服終えたゴンゾーが戻ってきたので、アイテムの経緯を嬉しそうに説明するオブライエン。


 ゴンゾーも頷きながら、感心した様にオブライエンの話を聞いていた。


 そのあと、ゴンゾーさんと労働契約書などを交わし、ノーマンさんと三人で、塔管に提出する迷宮申請書などを作成する。


 「そういえば、この会社の名前は、なんて言うんだ?」


 ゴンゾーが尋ねると、オブライエンとノーマンは、目を丸くしていた。


 「ん.....ど、どうした?オブ?ノーマンさん?」


 「すっかり忘れてたぁーーーー!迷宮作りに集中し過ぎて....」


 オブライエンは、頭を抱えている。


 ノーマンは、手を顎に当て考えている。


 「確かに、忘れていた....開業届を作らないといけないんだった。」


 「僕、名前とか考えるの苦手なんですよね。。。」


 オブライエンは、そう言うとノーマンに目を向ける。


 「いや、俺もそう言うのが苦手だ。」


 (さっき“迷宮必需品詰め合わせパック”とか言ってたじゃん....まあ、そのまんまだけど...)


 「そうだなぁ〜」


 ゴンゾーが考えているのを見て、オブライエンもノーマンも期待に満ちた眼差しを向けている。


 「そうだなー“ドリームラビリンス”とかどうだ?お前ら二人は、理想の迷宮を作りたいんだろ?そのまんまだがな。この国では、迷宮をダンジョンと言うが、ウチら龍人ドラゴノイドの間では、“ラビリンス”って呼ぶんだ。どうだ?」


 「夢の迷宮ですね!良いですね!僕は賛成です!」


 「ああ。俺も賛成だ!」


 オブライエンとノーマンが賛成すると三人は、笑い合う。


 「よっしゃ!じゃあ、ドリームラビリンスで決まりだな!略して“ドリラビ”だな!頑張ろうぜ!」


 「おーーー!」


 ゴンゾーがそう言うと、三人は手を上へ振り上げて、いつか理想の迷宮を作る事を誓った。


 「じゃあ、会社名が決まった祝いに、飯でも食べにいくか。」


 ノーマンの提案に飛び跳ねて喜ぶオブライエンとゴンゾー。ルンルン気分で迷宮を出て、いつもの居酒屋へ三人は向かうのであった。


 いつものタルタロスの居酒屋。

途中で、メリエンダも加わり、ゴンゾーを紹介したり、会社の名前や、宝をアイテムにした事などをメリエンダに伝えた。


 「へー。意外とあんた達、やるじゃない。なるほどね!アイテムは、良い案だと思うわよ!モンスターも骸骨スケルトンにレッドゴースト、良いんじゃないかしら。」


 メリエンダが、珍しく否定しないのでオブライエンもノーマンもなんだか嬉しい気持ちになった。


 ゴンゾーとメリエンダは、気が合うのか、ずっとモンスターについてや龍人ドラゴノイドについてなどをずっと話していた。


 すると、ノーマンは、ジョッキに入ったキンキンに冷えたビールを飲むと何かを思い出す様に言葉を発した。




 「申請書.....忘れてた.......」




—— 二人の、いや今では、ゴンゾーも加わり三人の夢の迷宮の完成は、まだまだかもしれない。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る