5話〜宝とボスを手に入れろ〜

——— タルタロスの依頼所に依頼ボードを見つめるオブライエンの姿があった。


 依頼所というのは、勇者へ頼み事ができる場所で、依頼したい事を書いた紙を依頼ボードに貼り付ける。


 小遣い稼ぎをしたい勇者が、よく仕事ここで探したりしているのだ。


 オブライエンは、ため息を吐いた。

もう3日ほどは経っただろうか。オブライエンは、“アイテム収集の警護 報酬5万タロス”という仕事を依頼ボードに貼ったが、一度も連絡をくれた勇者はいなかった。



 「そもそも、勇者自身に迷宮のアイテムを取らせるってどうなの?しかも5万タロスぐらいじゃ、そんな仕事選ばないわよ!」


 オブライエンを偶然見かけたメリエンダが、呆れたようにオブライエンへと声を掛ける。


 「メリエンダァ〜。やっぱりそうだよねー。どうすればいいかな?」


 「中古品店でも見てみれば?掘り出し物でもあるかもよー。」


 「実はね————」


 実は、2日前......ノーマンとともにタルタロスにある中古品店を回ったわけだが、良い品が見つからず、どうしようか考えていたのだ。


「でも、あんた達初心者用の迷宮を作るんでしょ?そんなに良い宝じゃなくていいんじゃないの?クリアされたらアイテム無くなるんだし!」


 そうなのだ。クリアされると宝は無くなってしまう。 基本、クリアされないように迷宮を作るが、オブライエンたちが作ろうとしているのは、成り立ての勇者たちが腕試しに挑戦する迷宮である。


 つまり、大量に購入できて、良い感じの宝が必要いうと事になる。


 「ないんだよねー」


 映太はそう呟くと肩を落としながら依頼所を出て行った。


 今日も賑わうタルタロスの商店街を歩く。


 1時間ほど色々な店を回るがどれも予算的にも客寄せになる宝物も見つからない。


 オブライエンは、迷宮に戻る。迷宮内の最終確認を今しがた終えたノーマンがオブライエンの表情を見て声を掛ける。


 「やっぱり、見つからなかったか?」


 「はい....なかなか無いものですね....」


 「オブ。お前は、ボスの方を手配してくれ。宝物の方は、俺がどうにか探してみる。」


 「えっ?でもノーマンさん迷宮の方が大変じゃないですか?」


 「ああ。迷宮の方はあらかた終わったからな。それにお前が連れてきてくれた魔物たちは、手間が掛からない種族ばかりだから。」


 「わかりました!ボスを先に見つけてきます!」


 オブライエンは、頭を上げると駆け足で迷宮を去っていった。


 「さて、宝物か....」


 ノーマンも街に出ていく。

タルタロスの裏路地にある商店街。雰囲気は悪いが、種類も豊富で、とにかく安いのだ。

知り合いの宝物やアイテムを扱う店に顔を出す。


 「ノーマンさんか。久しぶりだね。どうしたんだい?君がこんな店に来るなんて。」


 「お久しぶりです。コルドーさん。実はですね——」


 コルドーは、以前ノーマンと一緒に迷宮建築会社で働いていた事があった。

 ノーマンより一回りほど、年齢は上だが、お互いあまり人の輪には入れず、人付き合いが苦手者同士、よく交流していた。


 ノーマンは、迷宮を持った事、迷宮に置く宝物に困っている事を話す。


 「なるほどー。まあ、まずはマイダンジョンおめでとう!ただ、そういうコンセプトのダンジョンに合うアイテムは、難しいな。

 ノーマンさんになら安く提供はしてあげたいが、うちは在庫があまり無いからな」


 「そうですよね......」


 少し期待していただけに肩を落とすノーマン。


 すると、店の外から10代前半ぐらいの子供の声が聞こえてきた。


 「レントンのせいで、またクリアできなかったじゃねーか。」


 「ご、ごめん....」


 「レントンのせいだけじゃないわよ!リュータだってポーション使いすぎよ!もっと節約してよ!」


 「はぁー!俺が前衛なんだから死んだら誰が前衛やるんだよ!」


 「レオナだって回復魔法早く使えるようになればいいだろ!」


 「馬鹿リュータ!」


 多分、成り立ての勇者パーティーなのだろう。

迷宮がクリアできずに喧嘩しているようだ。


 その会話を聞いて、ノーマンは顔色を変え、店主のコルドーへと意気揚々に言う。


 「コルドーさん!これはどうですか—————」


 

 「なるほど。確かにそれなら面白いかもな!

 わかった。ちょっと準備してみて、予算がどれくらいになるか出しておこう!」


 「ありがとうございます!」


 そういうとノーマンは、店を出ていった。


——— その頃、オブライエンは、タルタロスの西側地区、住居が並ぶ、住宅街を歩いていた。


 古びたマンションに入り、階段を登っていく。


 「“303”......ここだな。」


 オブライエンは、303号室と書かれた部屋のインターホンを押す。


 すると、ガサガサと音を立てて、住人がドアの方近づいてくるのがわかる。


 「ガチャ....」


 扉が開く。キーっと鈍い音がしながら。そこにはゴミだらけの玄関に一人の龍人ドラゴノイドがいた。


 緑色の鱗に覆われていて、龍の顔に長い尻尾。

本来なら龍人は、結構強い分類の魔人だが、この龍人は、覇気が全く感じられない。


 龍人は、眠そうな顔に手で身体をポリポリと掻きながらに言う。


 「おう。オブじゃねぇか。急にどしたん?俺仕事お前に頼んどったっけ?」


 「お久しぶりです。ゴンゾーさん。いえ!私、派遣会社辞めたんですよ!今日は、違うお話で来ました。今大丈夫ですか?」


 (まあ、仕事を頼むって意味では同じだけど....)


 「なんだ?まあ、上がれよ!散らかってるけどな!」


 そういうと、ゴミをかき分けて、龍人のゴンゾーが部屋の奥へと進んでいく。


 オブライエンも付いていくが、足の踏み場がなく、前に進まない。


 (散らかってるってレベルじゃないぞ....)


 ようやく廊下を渡り、8畳ぐらいの部屋に入ることができた。


 部屋も食べ残しや、ペットボトルのゴミで散らかっていた。


 なんだか、カサカサ部屋から音がするが、オブライエンは見ないようにしていた。


 「えっと、ゴンゾーさん、今はお仕事してますか?」


 「ん?ああ。日雇いで色々な迷宮を転々としてるぜ。年老いた龍人には、金はあんまり出せねぇ〜所が多いけどな」


 ゴンゾーは、オブライエンが派遣会社時代のスタッフで、部屋の汚さからは、想像できないほどしっかり働いてくれるスタッフであった。


 だが、年齢が高く、龍人にしては、弱体化してきたため、雇い先が無くなってきて、去年ぐらいにオブライエンが勤めていた派遣会社を辞めたのだった。


 「実は.....僕今、自分のダンジョンを友達と作っている最中でして、そこのボスを探してるんです!そこでゴンゾーさん良ければ、ボスをやってくれないかなーと....」


 オブライエンの言葉を聞き、目を丸くするゴンゾー。


 「俺がか?この年老いた龍人がボスか.......ハッハッハッハッハッハッ!オブ!なんの冗談だい?そりゃ、若い頃は、ランク5のボスは経験あるがな。今は、もう能力値も低くなってる...」


 オブは、それを聞いて改めて説明した。


 ノーマンとオブがやっている迷宮のコンセプトが、成り立て勇者用という事。最初は、そこまでお金は支払えないが、ゆくゆくは、正社員やって欲しい事、自分のスタッフ時代のゴンゾーの勤怠や真面目さを買っている事、など。


 ちなみに今回の迷宮のボスの魔人は、正社員にしたいという案は、ノーマンも同意してくれていた。


 もし、理想の迷宮を作れるようになった時、こちらの迷宮を管理して欲しいからだ。


 「僕のスタッフだった時、ゴンゾーさんは、一度も欠勤、早退、遅刻をしませんでした!他の魔人が無断でいなくなったりで、僕がてんやわんやしている時、とてもゴンゾーさんの存在に助けられたんです!」


 オブライエンは、素直に全部言う。ゴンゾーもオブライエンが、建前や嘘を使える人間ではない事は、知っていた。


 しばらく考えて、ゴンゾーは、口を開いた。


 「はあー。いいぜ!わかった!やってやるよ!その代わりいつかは、給料たくさんくれよな!」


 オブライエンの熱意に負けたのか、ゴンゾーは、一度ため息を吐き、了承した。


 「ほ、ほ、ホントですか!!!!やったーー!では、早速、迷宮まで来てくださいよ!」


 オブライエンは、嬉しさの余り。泣きながらに喜ぶ。そして、いち早くゴンゾーに迷宮を見て欲しかったし、ノーマンにも会わせたかったのだ。


 「急だなぁーー。わかったよ。支度するから外でちょっと待ってろ!」


———こうして、オブライエンとノーマンは、新たな仲間と迷宮のボスをゲットしたのだった。しかし、まだ開店までには、時間が掛かりそうだ。













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