3話〜モンスター集めは根気が必要〜

———— タルタロスの西にある魔物牧場『ウエストファーム』。タルタロスの中では、それなりに名の通った牧場で、迷宮運営会社の大手“DBC”や”迷天グループ“などにも魔物出荷している牧場だ。


 そこにオブライエンはいた。


 「・・・メリエンダさん......もうちょっと安いのいない?.......」


 「ポイズンスネークは、それが最安値よ。うちのポイズンスネーク舐めんな!」


 カウンターでメリエンダが声を張り上げている。


 メリエンダは、魔物育成学校卒業後、この魔物牧場『ウエストファーム』に就職した。


 現在、入社そろそろ1年目を終えるかという所だが、持ち前の気の強さやコミュニケーションの高さから、販売部の係長になっている。


 「あんた、ウチで買う気なの?そんな予算じゃ、すぐ破産するわよ!」


 「こ、こんなモンスターを揃えるのが大変だなんて。」


 「今どれくらい揃ってるのよ?」


 「んーーーー、ウチで飼ってるスライム10匹と黄金サソリ3匹。あとは、ネットで飼った岩ミミズ5匹!」


 「は!?まだ18匹しかいないの!?しかも何そのラインナップ!いくら初心者用の迷宮でもそれはやばいわ!チュートリアルよ、チュートリアル!!」


 メリエンダは、呆れながら言葉をオブライエンに浴びせる。


 「だって.......かわいいんだもん。知ってる?岩ミミズを迷宮に入れてると土がどんどん固くなるんだよ?黄金サソリなんか暗い洞窟にいるとキラキラしててさ!」


 嬉しそうな顔で話すオブライエンに冷たい視線を送るメリエンダ。


 「ノーマンに同情するわ......いい?オブ!あんたの水槽じゃないのよ?迷宮は!あなたが好きなモンスターを入れれば良いわけじゃないの!岩ミミズなんて私でも倒せるわ!黄金サソリに至っては、あいつら毒もないじゃない!」


 メリエンダは、怒り疲れた様子でため息つくと一言。


 「帰りなさい!」


 「えっ!?ちょ、ちょっと僕お客さんだよ?」


 「うるさい!!金がないやつは、客じゃねわ!ウチのブランド舐めんな!」


 そう言うとオブライエンは、店から押し出されてしまった。


 「ど、どうしよう.....やっぱりあいつの牧場行くしかないか....」


 オブライエンは、肩を落とし、タルタロスの街へと歩いて行った。



—— 一方、ノーマンはというと。

 カンカンカンカンッと音を立てて、迷宮内の罠を設置している。足で床を踏むと弓矢が放たれるという古典的かつ王道の罠だ。


 「よしっ!これでいいだろう。」


 ノーマンは、一人で罠を自分で設置している。自分の迷宮は、自ら罠を設置したい。そういう気持ちもあるのだが、実際は節約という意味合いの方が今は大きい。


 「もう1箇所、点検しとかないとな。」


 再び、違う箇所に向かうノーマン。迷宮内を進みながら罠を確かめ、徐々に完成が近くなってきた。


 (オブの奴、魔物の調達は、うまくいってるのか?)


———タルタロスの北部エリアの果て。城壁沿いに木が生い茂っている。オブライエンは、その林の中を歩いていた。


 「お!これは、軍隊セミじゃないか!これは、人面草マンドラゴラ?おっ!こっちは!——」


 オブライエンは、次々と現れてくる魔物に目を輝かせる。だが、それが目的ではない。

林を進むと急に視界が開ける。そこには、小屋がポツンッと建っている。


 オブライエンは、木の扉を叩く。


 「すみませーん。ガンジンさーん。」


 静かな林の中にオブライエンの声と扉を叩く音が響き渡る。

 

 「うるさいっ!一回呼べばわかるわ!」


 怒鳴り声とともに扉から一人の老人が出ててきた。

 その老人の毛のない頭に陽光が反射している。

伸び切った眉毛で目が見えない。

とても高齢なのだろう。杖をつきながらオブライエンの前に一歩一歩進んでくる。


 「ガンジンさん、お久しぶりです。オブです!今日は、ちょっと相談に来ました!」


 「んっ?オブか。久しぶりじゃのぉー。まあ、上がりなさい。」


 そう言うとガンジンは、オブライエンを家の中に招く。部屋の中は、とても綺麗で無駄な物がなく、整理整頓が行き届いている。


 真ん中にあるテーブルに腰掛け、ガンジンとオブライエンが会話を始める。


 「お久しぶりです!ガンジンさん元気でしたか?」


 「最近は、身体も動かないようなって、息子に世話を頼んどるじゃけどなぁ〜。まあ、気持ちはいつも通り変わらんわいっ。それで、わしに頼みがある言うとったの?」


 「はい!そうなんです!実は——」


 オブライエンは、ノーマンの事、新しく迷宮を作ろうとしている事、魔物の手配に戸惑っている事などを説明した。


 それを親身になって聞くガンジンは、元々凄腕の魔物飼育員であった。オブが初めて会った時点でもだいぶ高齢ではあったが、当時小学校の職場見学で訪れた『ヒーヒーファーム』という牧場の飼育責任者がガンジンであった。


 オブは、一年程、魔物への情熱を買われて、ガンジンの元でアルバイトをしていた。


 「ふむ....まあ、お主の気持ちはわからんではないがのぉ〜もし、金がないのならリバイバルスライムを使えばええんじゃ。そして、迷宮にいる魔物は、全部が全部強くなくてええ。

むしろ、場面、場面で強いのを配置した方がええ時もあるんじゃ。」


 「なるほど!さすがガンジンさんです!リバイバルスライム!すっかり忘れてました!」


 オブは、凄い勢いでノートに文字を書いている。


 リバイバルスライム——名前の通り、スライム型の魔物で、切ると分裂していく。一日もしないうちに本体と同じぐらい大きさに切られた個体が成長する。これを切っては、一日待つ、を繰り返す事で凄い数のスライムを手に入れる事ができる。


 リバイバルスライムは、強くないどころか、戦闘意欲がない魔物で、よく迷宮で数合わせで何十匹単位で入れる会社もよくあるようだ。


 斬撃には、無敵なのだが、魔法などでの攻撃は分裂せずに死んでしまう。かなり安価で売られているので今のオブライエンたちにはピッタリの魔物だ。


 「でも、強い魔物がなかなか.....それに初心者用の迷宮ですから.....」


 「ふむ。確かに予算も心許ないしのぉ〜」


 ガンジンは、閃いたように眉毛で隠れた目を見開く。


 「そうじゃ。今夜ここに来い。良い魔物を手に入れられるぞい。」


 ガンジンは、そう言うとニヤリッと笑い、紙切れをオブに渡す。


 「わしは、いけんからのぉ。息子に行かせるから、しっかりやるんじゃぞぉ」


——— そして、その夜。

ここは、タルタロス共同墓地。タルタロス内に唯一存在する墓地で、とても広い面積がある。


「やあ!きみがオブ君だね。どうも。親父からはよくきみの話を聞いていたよ。私がガンジンの息子のマハトマーだ。宜しく!」


 とても陽気そうなおじさん。ガンジンさんとは、似ても似つかない逞しい身体つきの中年男性だ。


 「マハトマーさん、宜しくお願いします。実は....ガンジンさんから詳しく聞いてないんですが、墓地という事は.......」


 「ハッハッハッ!親父のやつ、ちゃんと伝えなかったんだな。そうだ!洞窟型の迷宮には、骸骨スケルトン型は欠かせないだろ?」


 「そ、そうですよね...骸骨型がいれば、少しはマシになるかもしれないです.....うん。」


 無理矢理、自分を納得させるオブライエンは、魔物は大好きだが、墓地や幽霊といった類いは苦手であった。


 「骸骨型は、買うと高いからな!採集した方が簡単なんだ!オブ君は、お金が無いんだろう?今晩は、満月だから骸骨が良く採れるぞ!

 もしかしたら、骸骨騎士スケルトンナイトに下手したら、骸骨龍スケルドラゴンなんかも採れるかもしれないぞ!」


 目を煌めかせてマハトマーは、上機嫌にいう。


 (えっ?骸骨採集.....そんなテンションで骸骨って手に入れるものなの?)


 「オブ君、復習だ!骸骨はどうやって生まれる?」


 「えっと、死んだ人間の遺体を苗床にして生まれるんですよね。それで苗床にした人間の生前の時の能力、職業などによって色々な骸骨が生まれてくる。でしたよね?」


 「その通りだ!そして、満月の日に産まれやすいのも特徴だ。深夜2時から3時の間は、“丑三つ刻”と言って、骸骨を採るにはゴールデンタイムなんだ!」


 意気揚々と語るマハトマー。


 オブライエンは、マハトマーに力一杯に連れられて、タルタロス共同墓地へと足を踏み入れていった。


——— オブライエンは、迷宮に配置する魔物を手に入れる事はできるのだろうか。まだまだ、オブライエンとノーマンの初迷宮の開店には、時間が掛かりそうだ。

 















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