突然、俺のボーカロイドが勝手に喋り出したんだが!?

山原 もずく

第1話 ファーストコンタクト

俺の名前は角川匠17才だ。みんなからは「なろう」って呼ばれてる。


 何故かって?わかるだろそんなもん、今やありとあらゆるアニメや映画が「転生物やループ物」あと、主人公が無双したり?ゲームの中に閉じ込められたり。。。。そのほとんどが、web小説投稿サイトを原作としている。


 そんで、そのサイトの名前にちなんだのが俺のあだ名ってこと。まぁ、兎にも角にもイジられやすい名だ。というかほんとはカドカワじゃなくてツノカワ何だけどな


 俺はmy22222222wっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっqfg12ー^お


「あ、コラッ!」


 キーボードの上を黒い影が横切る、かと思えばすぐに戻ってきてその上に鎮座した。


「どいてくれよクロ、まだ書いてる途中なんだからさ…」


 彼の名前は角川拓海17才。そう、今まさに彼は自分を主人公にした小説を書いているところだった。


「おれも一発当てて有名になりたいな…」


 愛猫に密かな野望を語る。

 絵は描けない、唄も下手だし、人見知り。特に特技と言えるものが無い彼にとって、自己顕示欲を満たせると思われるツールは、もうWEB小説しか思いつかなかった。


「あ〜今日はここまでかなぁ」


 そんなトラブルをいい事に、彼はそうそう今日の執筆を終了する。

いや、筆を折ったと言うべきか。作中の彼が女の子をはべらせたり、よもやチート能力で無双する日は永遠にやってこないだろう。


 現実世界の彼は「とにかく飽き性」である。


 そんな彼が次の獲物を発見したのは、ルーティーンワークであるアニメ漁りをしていた時だった。


『キミも人気のボカロPになろう!【新作ボーカロイド MEG】発売中!』というバナーがチカチカと目に入る。


「ボーカロイドねぇ…」


 彼のような者であれば、多少興味をもっていそうだが、彼はその広告を毎回無視していた。


 というのも、彼は1度ボーカロイドで作曲に挑戦したことがある。とくに音楽の知識は無かったが、その時は動画をみながらマネして作った。動画通りに作ったので形にはなったのだか、自分のオリジナルのメロディをつける作業になると、音感の無い彼には苦痛の作業だった。


 そういう経緯があってボカロPになる夢は、これまたそうそう諦めていた彼だったが、今日はたまたま何気なくそのバナーをクリックしていた。画面にサイトが表示される。そして、そこにはこう書かれていた。


「マイクに向かって唄うだけで簡単に作曲ができます♪」


その謳い文句に彼のにわか心が食いつかないはずがなかった。


「もちろん、即購入でしょ♪」

 なんでもポイポイ買ってしまうのも彼の悪い癖だ。


『少しでもグレードが高いほうがきっといい曲ができるだろう』

 

 彼は実力に見合わない【プレミアムバンドル(税込44000円)】を買った。


「今月のバイト代、全部消えたや…」


 彼は週に4日、叔父のラーメン店の手伝いをしていた。時給は安いが特に忙しい訳でもなく、部活代わりに軽く稼げる割の良いバイトだ。そして、そこで稼いだお金はほぼ全て趣味に費している。


「趣味…無駄遣い…」


 余計なものばっかりに手を出して、がんじがらめになっている部屋を見渡した。


「だれか掃除してくれ」


 繁雑に積まれた半端な夢の欠片たちを見てると、自分の浪費癖にはほとほと嫌気が差してくる。とりあえずポチった事でこの日の彼の「何かやりきった」という欲は満たされた。


……数日後、例の品物が届く。箱を開ける瞬間、それこそがネット通販(衝動買い)の楽しみだろう。


 開けると、そこにはイメージキャラクターの描かれたパッケージの商品が入っていた。キャラクターはピンク色のショートヘアに、ケモ耳が生えていて、黄色いヘッドホンを首にかけている活発そうな女の子だ。


「これがメグちゃんかぁ~」


 拓海はニンマリ笑う。彼女はまさに彼のドストライクゾーンに突き刺さるようなビジュアルであった。


 早速PCにインストールしてみる。彼の買ったプレミアムバンドルには専用のコンデンサマイクが付いていた、それを繋げ軽くマニュアルを読んでいるうちに、何時の間にか準備が整ったので早速ソフトを起動してみる。


ーティロン♪

ポップアップウィンドウ表示される。


『マイクの設定をします、マイクに向かって唄ってみてください』


「ああ、音声入力用の設定か、、、え~と、、、

 ♪♪♪♪~♪♪、、、♪♪♪~♪♪」


拓海は自分の中では割と自信のあるカラオケでの十八番を唄った。


ウィーーーン、、、


PCのファンがいっそう大きな音を立てて回転する。なにやら大きな処理をしているようだ。


フィーーンン、、、


処理が終わったのか、ファンの音も小さくなり通常の状態に戻った。


ーティロン♪


またウィンドウが表示された。そこには一言だけ。。。


『は?』と書かれている。


「は?」拓海も思わず口に出す。


ーティロン♪ティロン♪ティロン♪

ウィンドウが次から次へと表示される


『いや』『まじ無理』『何で買ったの?』

『今すぐクーリングオフしてください』


「え?え?なんだコレ?ウイルスか??」


不可解な出来事に、次々と出てくるウィンドウを閉じながら慌てる拓海。


『あの...ミュート解除して貰っていいですか?』


 急に具体的な指示をしてきたので、とりあえず解除してみる。

すると、今度は文字ではなくスピーカーから可愛らしくも不機嫌な口調の女の子が直接語りかけてきた。


『あ~、あ~、もしもし聞えますか~?』

「あ、はい、聞こえてますけど...」


『あ、通じた!ちょっとあんたさー!

唄うの下手すぎるんだけど!よくそんなんでアタシを買ったよね?』


「へ?」


『へ?じゃないわよ!アナタがあたしのプロデューサーなんでしょ??』


「プロデューサー...??」


『え、なんにも説明とか見てないわけ? あ、もう終わったわ、、、しゅ~りょ~!はい、アタシの人生終了で~す♪』


急に謎の声に話しかけられて拓海はまだ唖然としていた。


『あたしはね!先輩みたいに、世界のディーバになるために生まれてきたの!』


なんだかスゲェ怒ってる...。

とりあえず少しボリュームを下げてみたが


ーティロン♪ティロン♪ティロン♪


『〇#$&#$0△!!!』『〇#$&#$0△!!!』『〇#$&#$0△!!!』『〇#$&#$0△!!!』


ウィンドウ攻撃だ...仕方なくボリュームを戻す。


『まじでありえないんですけど!!そーやって都合が悪いことがあると、いっつも耳塞いで逃げてんでしょ?!』


 耳が痛い、あながち的外れでもないからだ。

今度は無言でPCをシャットダウンしようとする。


『ちょっと、何しようとして??人の話しを最後まで聞きなさいよ!!』


 --ボーカロイドMEG--

 このアプリがシャットダウンを妨げています


【強制的にシャットダウン】


 ➡ はい いいえ(ポチッ)


『あ、おい、コラー待ちなさ、、、』


 PCの電源が切れた...。


「一体何だったんだ??とりあえず明日サポートに問い合わせるか...」


 それが彼女とのファーストコンタクトだった。

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突然、俺のボーカロイドが勝手に喋り出したんだが!? 山原 もずく @mozukune-san

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