第32話・他人任せの何が悪い

「ぎゃははっははははははは!」

「お前……!」

 お前本当に神? というか性別女? と聞きたくなるほど大きな、下品な笑い声。

「えーちょっとちょっと! つまり? 久慈川さんは? 初めてできたお友達にまんまと騙され!? 浮世様をもっていかれた挙げ句!? リジュたんから足手纏い扱いされ!? ここでこうしてずーーーーっと時間を潰してたってわけ!!?!?? ぎゃはっはははっはは!」

「…………」

「どんだけ間抜けなのさ! 今まで一人も友達のいなかった君に話し掛けてくるやつがいたら怪しまなくちゃ! もー笑えるなぁ」

 全くをもってその通りだ。私が間抜け過ぎるのは……十分よくわかってる。

「それで? どうするの?」

「……どうするって」

 ひとしきり笑ったらしい誌記は、笑いすぎて溢れたらしい涙を拭きながら私に問う。どうする? なんでそんな質問。私に選択肢なんて。

「このまま座布団をペラペラにするために生きるの?」

「……んなつもりはないよ」

「じゃあリジュたんに言われた通り、勉強して友達作って過ごすの?」

「そんなのできるわけないだろ」

「うん。で? じゃあどうするの?」

「私は……どうしたらいいんだよ」

「そんなの知らない。君しか、知らない」

 投げやりだ。選択肢があるように語ってくるくせに、どんなのが残っているのかは明言しない。ひどく投げやりだ。不親切だ。

「なるほど久慈川さん、君は、自分が何もできない存在だということに嘆き、絶望しているみたいだねぇ。で? そんな人類は君だけかい?」

「はぁ……? そんなわけ、ないだろ」

「そう、そんなわけ、ない。つまり?」

 つまり? 私以外の人間が悩んでるからなんだ。そうだろうさ、確かに私以外にもみんな悩んで、苦しんで、それでも答えを探して生きてるんだろうさ。だがそれが私にどんな関係がある。そんなの。

「どんな生物も、高性能なAIを搭載したロボットでさえ、実はたった一つで生きていくのは難しい。特に人間は顕著だよね、圧倒的に生物として弱いから、集団戦に長けた。自分よりも何倍も身体の大きいマンモスを倒す為に、小さいながら戦い方を知った。囮になる者、武器を作る者、実際に攻撃をする者、子どもを産む者、様々な役割分担をして生き残ってきたんだね」

「何が言いたい?」

「はぁ。ここまで言っちゃうと意味がない気がするんだけどさ、君の役割ってなに?」

 役割? なんだそれ。RPGじゃあるまいし、そんな明確なものを持っている人間なんていないだろ。

「医者と患者の関係性がある。患者は治療を望み医者は金を望む。どんな弱者だって役割があるんだ。さあもう一回、君の役割はなに? 君ができることと君が望むこと、それを掛け合わした先に、どんな役割がある?」

 私は、リジュを助けたい。これが望むこと。そして……できること? 出来ることなんて、ない。それこそ、祈ることしかできない。リジュが無事に浮世を連れて帰ってきてくれることを、ただ祈って、願って――。

「……そういうことか?」

「うん。そういうこと」

 なんだこいつ、回りくどすぎる。こんなやつが漫画の神だから、多大なる才を持った連中があと一歩届かず散っていくんだ。いやそんなのは今関係ない。

 なんだよ、そんなことかよ。

「リジュたんについて、浮世様について、そして君の友達について、よく知っているのはこの世で君だけだ。しかしそんな君には力がない。じゃあどうするか、力のあるべき者に祈ればいいのさ。願って――そして頼ればいい。他人任せの何が悪い。言い方変えれば役割分担さ。それだけ。そんな当たり前のことに丸一日掛かって気づけないなんて、君もまだまだ少年マンガを読めていないね」

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