第四章とか、どうでもいい

第31話・案外、普通の人間だった

「リジュ……行くの?」

「うん、行かなきゃ」

 唖然としていても仕方がない。リジュの選択肢は、地球人を滅ぼすか、故郷に戻って浮世を取り戻すか。

 そして私の選択肢は……私の選択肢は? 一般人たる、ただの人間の、私の選択肢は……?

「地球とかはどうでもいいんだけどね、浮世さんは……私の大事な人だから」

「なら、私も」

 立ち上がるリジュにつられて、私もしびれ掛けた足を無理矢理動かす。

「トーコちゃんは宇宙でどうやって呼吸をするの?」

 立ち上がりかけた、片足をつけたままの私に、リジュは冷たい声音でさとす。

「それは……」

「足手纏いになるだけって、わかるよね」

「……」

 他人任せ。

 これでも一応、放任主義な両親のおかげで、なんでも自分でできると思っていた。しかし、リジュが来てから、自分の大切なモノを護りたいとき、いつも他人任せだったことを今にして気づく。

 あまりにも、遅すぎる。

「大丈夫、安心して。必ず浮世さんは私が取り戻してくる。ちゃんと勉強して、ちゃんといい友達作って……待ってて?」

「……」

 自分は口先から生まれた女だと思っていたけど、案外、普通の人間だったらしい。何も言い返せないし、何もできることがない。

「……じゃあ、行ってきます」

「……ああ」

 学校にでも行くように、軽い足取りで家を出て行くリジュを、見送ることもできない。

 立ち上がりかけた足を再び下ろし、座布団の上、何をするべきか考えた。何ができるか、考えた。


 ×


「あれ、結界ぶっ壊れてる。流石、浮世様は仕事が早いですな~」

 ドアの外から暢気な声が聞こえる。すっかり耳になじんだ声だ。

 時計を全く見ていなかったが、この声がするということは既に日暮れ。夕食前だ。何も思いつかなかった。何も出来なかった。

「リジュたーん、大親友が来ましたよー」

 誌記しき。漫画の神とやら。返事をする気にもなれない。

「あれ? もしかしてリジュたんどころかご飯もできてない? もしもーし、久慈川氏~」

 察してくれ。お前みたいな脳天気ギャグキャラと会話する気分じゃないんだ。

「うわーんお腹が空いたよー話し相手がほしいよー」

「……」

「無視しないでよー。ばーかばーか」

「…………」

「へい! 無視は良くないって無視は!」

「……………………」

「こんの性犯罪者予備軍! 間抜け面! 口だけ女! 二世紀に一人の変態! 料理の腕そこそこウーマン! 妖怪ゲロまみれ! ねぼすけ! もっと漫画買え! 漫画買ったらレビュー書いて新しい層に浸透させろ! SNSで拡散しろ! ボケ!」

「……」

 後半……私関係なくない? 出版業界に言えよ、神様なんだから。

「もーう、何があったのさぁ。言ってくれないと延々と今の出版業界についての愚痴言うよ?」

「……はぁ」

「ほら! これみよがしにため息ついてないで! この神様に何でも言ってごらん!」

 このため息は別に、現状に嘆いてでたものじゃない。こいつの空気の読めなさに辟易しただけだ。

「相槌挟むなよ」

「あいあい!」

 話している途中、イラッとしないために前置きを用意するも、その返答にイラッとしながら、とりあえずことの成り行きを話した。

 聞き返されない為に、かなり綿密に。

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