第23話・おい、今はバトルパートなのかギャグパートなのかはっきりしろ

「これは一体……どんな状況だ……?」

 外崎は大の字に倒れ白目を向き失神。リジュは膝をつきうつむき、深呼吸を繰り返し、どこかうつらうつらしている。

 そして対峙しているのは、険しい表情で身構える浮世。

「浮世……」

「来るでないッ!」

 その切迫した声音に、ただ事でないことを知る。

「やはり汝は……危険じゃ」

「うふふ~こんなに善良な神様を捕まえて何を言うの~浮世ちゃんは~」

 余裕、呼び名から、もしかすると浮世よりも格の高い神なのではとも思ってしまう。大丈夫、なのか? いや、それよりもまずは。

「リジュ、大丈夫か?」

 私の到着に気づいていながら、視線をやるだけでなんの反応も示さなかったリジュに、これは異常だと思い近づく。

「触らないで!!」

「……………………え?」

 肩に、軽く触れただけだった。それだけで、この、激しい拒絶。

「トーコちゃん、もう、はやくどっか行って……? 今すぐ。私から離れて……!」

「…………あ……えと……」

 よもや、こいつからここまで拒絶される日が来ようとは。

 というか、こいつにここまで拒絶されて、ここまで傷ついている自分がいるとは。なんとも驚きだ。

「……わかった。なんか、悪かった…………おい、外崎、何が起こった」

 ここでムキになるのは悪手だと判断。白目を剥き女子力の欠片かけらもなくなった美少女に声を掛ける。

「うひひ~……ありゃ、久慈川氏じゃないっすか~ぬふふ~」

 ……ぼんやりと目覚めた外崎は、そのまま私の腰に抱きついた。なにしてんのこの駄天使。

「おい、今はバトルパートなのかギャグパートなのかはっきりしろ」

「見てわかんないっすか~? ラブコメ、いや、恋愛パートっすよ~」

 スリスリと。私の胸部に頬ずりをする外崎。なにがどうなってる。というかやっぱ可愛いなこいつ。うん、脳を揺らすような良い匂いもするし……というか! こんな光景をリジュに見られたら……!

 おずおずと振り返れば、そこには、荒く呼吸をしながら、今にも閉じそうな瞳を必死に押し上げ、こちらを凝視しているリジュ様が。とんでもねぇ威圧感だ。しかして殺意や憎悪とは違う……?

「うふふ~正直、宇宙人とかはどうでも良かったんだけど、こうやって浮世ちゃんを見下せて嬉しいわ~」

「くっ……」

 声の方に眼をやると、浮世までもが膝をついた瞬間だった。

 こんなことが……。

「ヒール……随分俗世にまみれたのぅ」

「それを浮世ちゃんが言いますか~? 私に黙って人間なんかに心を売った浮世ちゃんが」

 ヒールと呼ばれた女は、浮世を見下し、何をするかと思えば頭を撫でた。それはもう執拗に。けれど……それを拒まない浮世もいる。

「……やめるのじゃ……綯子とうこ、人前じゃぞ……」

 ん? 綯子? 綯子ってのは久慈川綯子? つまり私のことか? 違うぞ浮世、確かに私もお前の頭を撫でるのは至福の極みだが、今は外崎に腰をがっしり掴まれて……。

「おい外崎! 離せ!」

「え~いやっすよ~一緒に気持ちいいことしたいっす~」

「こんのド淫乱小悪魔天使美少女が……!」

 やたらと強い力で握られた指をなんとか、一本一本解除させなんとか(肉体的にも精神的にも)振りほどき、浮世の側まで駆け寄る。

 リジュ同様、混濁したような瞳に荒い吐息。言ってる場合じゃない。言ってる場合じゃないのはわかってるけど、エロくないっすか?

「どうしたんだ浮世。いつもの自信満々なお前はどこにいったんだよ」

「……綯子、綯子か? 馬鹿者……どこに行っておったのじゃ」

 浮世の虚ろな視線が、私の瞳を捉える。

 しかし言っていることは相変わらず支離滅裂だ。

「私はどこにも行ってない。お前こそはやく帰ってこい!」

「嫌じゃ、はよう二人だけになりたいのじゃ。こうして、ただの二人だけで、あの場所で、ずっと……」

 ちょっとちょっとちょっとちょっと浮世様、大胆過ぎでは……? すっぽりと、私の腕に収まるようにうずくまり、とにかく肌と肌の密着を求めるように抱きついてくる。なんなんだ。クーデレのデレ部分が暴走し始めたのか……?

「あらあら~浮世ちゃんが幸せそうでなによりです~」

「てめぇ……」

 こいつが、この場にいる三人に何かをしたのは間違いない、三者三様あるものの、明らかにおかしい。許っせねぇ……!

「(私の大切なやつらになにしやがった! 事と返答によっては神であろうと女であろうとなんであろうと関係ねぇ……ぶん殴ってボコボコにしてやるからな!)浮世とこんなにいちゃいちゃさせてくれてありがとうございます!!」

「あらあら~逆になってますよ~」

 くそッ! これもあいつの能力かッ……?

「うふふ~勘違いされても面白くないので教えてあげましょ~」

 女神・ヒールは、私を見下し、明らかに、浮世を見ていたときよりも冷たい眼差しで言った。

「対象は女の子限定ですけどね~……【幸せな夢を魅せる】それが私の、癒やしの神としての能力です~」

 幸せな夢を魅せる……それで……みんながこんなことに?

 いや、それよりも疑問が一つある。

「それってさ、もしかして男の方が需要多いとか、よく言われない?」

「男なんて……所詮女の子を幸せにするための道具あり、女の子を不幸にするゴミですから~」

「なん、だと」

「いつかそんな道具がなくても女の子が幸せになれる世界を構築するのが私の夢なんです~」

「つまり……男を……この世から……」

「宇宙人さんに全人類を滅ぼす力があるなら、半分だけ丸っと、男だけ滅ぼしてくれないかな~とか思って交渉してみたんですが~ダメだったので~トビキリ幸せな夢をみてもらいました~。とにかく今は、貴方が愛おしくて尊くて憎くて殺したくて仕方がないはずですよ~。なので接触は気をつけてくださいね~」

 あっぶな。遅ぇよ忠告が! だが……。

 悲惨な現状に改めて眼をやる。みんな、一体どんな夢を見たらこんなことになるんだ……?

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