第22話・すまない、その変質者は私達にはどうすることもできない。

「おかえり、じゃあ行こうか」

「遅かったっすね~。大の方だったら最初からそう言わないとダメっすよ~」

 鴫頼と外崎は迎えの言葉から、人間性の格差をあらわにする。こんなシチュエーションでも出るもんだな~、品の良さ悪さ。

「えっと、次は……」

 マップを見て行き先を確認する。

 眼前で道は二手に分かれ、鳥類エリアかアフリカエリアを選べるようになっていた。

 私達は外崎の強い要望から、鳥類エリアへ足を踏み込む。

「しかし、なんで鳥なんだ?」

 班決めが終わってコースを考えている時、外崎は真っ先に鳥類エリアを選んでいた。そこまで鳥好きキャラじゃないと思うんだが。

「えーだって美味しそうじゃないっすか~。特に珍しい鳥は、どこがどの部分なのかな~って見ながら回れるのめっっっちゃ楽しいっす!」

「そ、そか……」

 なぜ、普通に動物を見て楽しむという楽しみ方ができないんだ宇宙人と天使こいつら……。

「わわっ、見てよ久慈川、凄いよ、なんか凄いのいるよ!」

「どうした……ってホントだ! えぐっ!」

 鴫頼が指をさした方向には、赤をベースにした体に、白い斑点がいくつもあり、顔面は青い鳥がいた。怖い。

「ベニジュケイだって、名前も凄いな……」

「あれもあれも! なんだあれ!」

「どれどれ!」

 今度は真っ黒な体にオレンジで巨大な喉仏のどぼとけを装着した鳥。怖い。

「ミナミジサイチョウ……いかついなぁ……」

「すっごいな。私の知らない鳥の世界がここにある……」

 と。食材探しで夢中な外崎とは違い、私と鴫頼はまっとうな楽しみ方をしていた。

 なんだろうこれ、やばいんだが、めちゃくちゃ楽しいんだが。これは動物園だから? それとも同じ価値観を持つ友達と回ってるから?

「あっ! 見てよ久慈川!」

「お次はなんだ~?」

 鳥がおさめられてしかるべきの檻には、明らかに羽毛とは異なった、もふもふの衣服を纏った女性が……こちらをニコニコと静観している。

「変質者が……いる」

「……ああ……うん」

 最悪だ。これがあれか? 浮世の言ってたタチの悪い神様か? タチっていうかどいつもこいつも頭悪いだろ。

「ど、どうしよう、係の人呼んだ方がいいのかな……」

「いや、なるべく関わらない方がいいだろう。さっさと行こう」

 元からその檻にいた鳥には申し訳なく思うが、すまない、その変質者は私達にはどうすることもできない。

「大変だ久慈川」

「……ああ」

「変態に回り込まれたぞ久慈川」

「…………ああ」

 視線を行き先に変えた時には既に、そいつはなんのイリュージョンか檻から抜け出し、目の前で、これまたニコニコと静観している。

「ようこそ苦原くるしのはら動物公園へ~。わたくし、癒やしの神を努めております、ヒールと申します~」

 あぁ、鴫頼にこの世界を見せたくなかった。

 しっかしこいつら、一般人もまとめてとか……見境なくしたのか?

「とりあえず……変態の処理は変態に任せよう、外崎」

「えっ外崎さんみたいな女の子じゃ危険だよ」

「大丈夫だ。あいつは対変態用変態だから」

「そんなバカな……あんなに可愛い子が……」

 私もそう思うよ! そう思ったよ! こんなに可愛い子が変態なわけないってさぁ!

「私達にできることはない、逃げるぞ。いいな外崎」

「えぇ……ウチ、盗んだ神具取り上げられちゃってるんすけど……」

「頑張れ! 任せた!」

「ご無体むたいな……宇宙人並の無茶振りっすけど……まぁなんとかするっすよ」

 鴫頼の手を引き、走る。温かい。

 ……そっか、私、リジュ以外の他人、浮世を除けば触るの初めてだ。

 一応親父に頭撫でられたことはあったけど……ちゃんと髪の毛生えてたからな……流石に温度までは覚えてない。

 つまり何を言いたいかといえば、私はその程度のことで少し、いやかなり、感動しちまってるってことだ。

「うふふ~。神の下の下の下の下の下の下くらいで存在してる天使ちゃんがぁ、一体私に何ができるんですか~?」

「あはは。当然、開いた差は道具で埋めるだけっすよ」

「道具? 神具は没収されてるのに?」

「ウチは現代っ子なんでねぇ、文明の利器りきに精通してるんすよ」

「それは……ポケベル?」

「これだからオバンは。これはスマホ。そんでもって起動してるのは無料通話アプリ。つまるところ登場してもらうのは」

「――――こんにちは。トーコちゃんが楽しんでいる遠足を邪魔する――」

「宇宙人様っす」

「――無粋な神様――」


 ×


「いいか鴫頼。この場所から絶対に動くなよ」

「でも久慈川……」

「大丈夫だ。全部終わったらすぐ戻ってくるから」

 とにかく走って、動物園の入り口近くにある第一休憩所まで戻った。

 そりゃあ不安だろう。心細いだろう。だけど行かなきゃならない。

 リジュをこっちの世界に引きずり込んだのは私だ。だから、どんなことが起きても、それにあいつが関わっている限り、私はそれを見届けないといけない。

「……私も出来るだけのことはしてみるよ」

「いやいい! とにかく私が戻ってくるまでじっとしててくれ!」

 これ以上問答をしている暇はない。来た道をそのまま引き返した。

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