第21話・嫁が浮気しとらんか見に来たのじゃ。気にするでない
「そっか~…………なんだ、良かった」
お? おっけー、なんだよな? 大丈夫なんだよな? その反応は
「彼女が出来ちゃったんだと思ったよ。でも、お友達と行くんだね」
「ああそうだ、友達。友達と行く。三人で」
「そっかそっか」
声が、近くにいる。真後ろだ。威圧感……違う、圧迫感が……重くのし掛かる。
「あの、リジュさん……」
「はい、なんでしょう」
次の一手が非常に重要になる場面。ミスは許されない。
「……天使とかも一緒なんですけど……だいじょぶでしょうか……?」
「天使? 道子ちゃんのこと?」
「はい」
まずはジャブだ。
「うーん、とっても可愛いから道子ちゃんもしっかり女の子だよ? でも道子ちゃんにはトーコちゃんの監視を……じゃなくて見守りをお願いしてるからなぁ」
監視をお願い? 私の?
「じゃあ道子ちゃんはいいや。何かしたらもう一回お腹に穴が空くだけだし」
「それで? あとの一人は?」
「あー後の人はなんの問題もねぇよ。えーとな……えとー、名前が……」
「誰?」
「いやマジで思い出せない。なんて名前だっけ」
顔の感じはなんとなく思い出せるんだけど……やばい、名前を思い出せる気が一切しない。何してんだよ私。初めて出来た友達忘れるとか鬼畜か!
「嘘、吐いてるようには確かに見えないね」
ずいっと。私の顔をのぞき込んで言ったリジュは。
「じゃあ今回は行ってきなよ、そのメンバーで。でも次からはちゃんと教えてくれなくちゃダメだよ?」
そう続けて、自室に戻っていった。
×
何もなく平和な一週間が過ぎ、舞台は動物園へ。
駅での集合、共にバスに乗り、世間話をしながら列で待機。どれも体験したことのないビッグイベントだった。
外崎も鴫頼もやんちゃにふざけるタイプではなく、予定していたコースを淡々と、しかし退屈しない程度に談笑をしながら進んだ。
そして私がトイレに行くためいったん班から離れ、用を済ますと、そこにはリジュがいた。
たまたまバッタリ会った、という感じはせず、まるで待機していたかのような立ち姿だった。
「トーコちゃん」
「おっ、リジュ。どうだ動物園は」
「思ってたよりも楽しくて良かったよ」
そいつは僥倖だ。宇宙人にも動物園の良さがわかるのか。あまり行く機会はなかったが、これからたまになら連れて来てやろうかな。
「うふふ……蟻がカブトムシを眺めてるのって……凄く、滑稽で……面白いね」
「ああ……さいですか……」
笑いを堪えながら話すリジュさん。違うよ。みるべきは動物であって人間ではないんですよ。
「んで、どうしたよ。班からはぐれたか?」
「んーん、誰かに呼ばれた気がして」
「呼ばれた?」
「その通りじゃ」
下から声がしたので視線を落とせば、そこにはあらら、なんて可愛い狐女神様が。
「……浮世?」
「浮世さん、何しに来たんですか?」
大丈夫かな私。これ幼女を誘拐してるみたいな図になってないかな。
「嫁が浮気しとらんか見に来たのじゃ。気にするでない」
「気にして欲しくないなら~トーコちゃんの手、離してもらってもいいですか?」
「嫌じゃ」
「ぐ、ぬぬぬ……」
リジュは意外と律儀らしく、地球に来たとき世話をしてもらった浮世へは、強く出られないらしい。
いやその理論で言ったら散々世話した私が殺されるのはおかしな話だよなぁ!?
「まぁそうカッカするな冗談じゃ。真の目的は他にあるでの」
「そうでしたか」
パッと。私から離れてしまった浮世。残念過ぎる。
まぁそんな美味しい話があるとは思ってなかったよ。
「そんで、高校生の一大イベントを中断させる程の用事ってのはなんだ?」
鴫頼が待っていてくれているはずなのでさっさと戻りたいが、浮世からの用とあっては
「ここにはとある神がおってのぅ。一応様子を見に来たのじゃ」
「こんな場所に……神、ですか?」
リジュの言うこんな場所に他意がないことを信じたい。楽しいんだよな? 遠足自体は。侮蔑の意味は込められてないよな?
「賑わいが多い場所や信仰を集める場所なら神は
明確な目的? 動物園に来るぐらいだから動物を見たいってのが目的だろ?
「あまり汝らの行動に口出しはしたくなかったんじゃがの、ここには悪質な神がおるのじゃ。なんとなく気がかりでのぅ」
なるほど。流石は面倒見の良さに定評がある浮世様。だけど――。
「どんなに悪質でも私は負けませんよ? 絶対」
自信満々と、いった様子でもなく、さも当然というように、リジュは言った。そして私も同意する。
外崎、そして誌記との戦いを見てわかったが、改めてわかったが、リジュは強い。並の存在なら太刀打ちできないのは明らかだ。
「うむ。しかしのぅ」
浮世は、下から目線のくせに、やたら威圧感を込めて、リジュを見つめて、ゆっくりと。
「戦いが強さのみで決まると思うなら大間違いじゃ。
言って、まるで空気と混ざるように消えていった。
たぶん、近くで見守ってくれているんだと思う。
だから、こんな嫌な予感は、払拭するべきだ。
「じゃあね、トーコちゃん。今度はお昼の時間で会えるかな」
「たぶんな。じゃ、また」
今朝目が覚めてから動物園を練り歩き今の今まで最高だった気分に、薄紫色の風が差し込んで、妙にざわつく心を抑えて、ベンチで待つ鴫頼達の元へ戻った。
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