第17話・アウトおおおおおおお!!!!!!!

「おお、来たか」

 三日ぶりくらいだろうか。大して時間は経っていなかったけれど、声も、匂いも、雰囲気も、その全てが懐かしくて愛おしい――我が許嫁――狐女神――ロリ巨乳――浮世様は、いつものように廃神社の堂でお茶を啜り、優美に私達を待っていた。

「実は各神に伝達があってのぅ。日本の、ひいては地球の未来を護る為にリジュ、うぬを始末しろ、との事じゃ」

 淡々と告げる浮世。内容に別段驚きはしないけど、それってつまり……。

「じゃあ……浮世さんも私の……敵ってこと?」

 気に掛かったことを、流石のリジュもはばかりながら聞く。

 聞かれた浮世は鼻で笑って答えた。

「汝はわらわの娘じゃぞ? 妙な真似はせん。じゃが……少なくとも日本にいる神……八百万やおよろず全てを抑え込めと言われても現実的ではない。日本勢が手こずれば海外勢も勇み足でやって来るじゃろう。それでも、リジュ、汝の心配はしとらんのじゃ。が……」

「……私か」

 間違いなく、足手纏いがここに一人いる。

「うむ。天使の女子おなごがとったように、まず綯子に接触してくるのは定石じゃろう」

 外崎は弱点を聞く、なんて生易なまやさしい行為で終わったが、例えば私を人質にとってみたり、操作してみたりと……自分で考えただけだがいくらでも利用価値がある。

「リジュ、よいか」

 浮世は立ち上がって、リジュに近づき、リジュもまた腰をかがめ、視線を合わせた。

「綯子から離れるな。常に、じゃ。いつ何時なんどきも。これが妾から汝に与える――地球で生きる上でのルールじゃ」

「――はい」

 おちゃらけた雰囲気を一切排除して話す二人。違和感がないこともないが、真剣な話をしてるんだ、仕方が無い。

 そんなことよりも『ルールは強者が与える』ね。力関係がハッキリ見えた。

「一応、今晩妾から話を伝えると言ったのでな、襲ってこんはず――」

 浮世の言葉が止まり、視線はお堂と外を遮るふすまへ。

「――じゃったのじゃが……おるの」

 一般人たる私ではとても理解できない力が働き、けたたましい音と共に襖が開くと、そこには瓶底びんぞこ眼鏡を掛けベレー帽を被った女が、不適な笑みを浮かべて仁王立ちをしていた。

「妾の神域に無断で踏み込むとは無礼な神もいたものじゃ。名乗れ」

「これはこれは浮世様。だめじゃあないですか、神議会しんぎかいで決まったことに抗っては」

「妾の為すことは妾が決める。二度は言わんぞ」

「へいへい失礼しました。私は漫画の神・誌記しきと申します」

「「「!」」」

 私だけかと思ったが、リジュも浮世も驚きを浮かべていた。それもそうだろう。なにそれ漫画の神って。手塚治虫のこと?

「ふっふっふ~。君達は――――」

 誌記と名乗った女はマントの中に手を入れる。

 名刺か? 武器か? 一体……。

「週刊少年ジャンプを知っているかい?」

 ジャンプの――創刊号を取り出した。

「当時の編集長にこれを作れと天命を出したのは私でね。以来発行するたび欠かさず楽しませてもらっているよ」

 わかった。こいつ、そこそこ歴史の浅い神様だ。

「私には浮世様のような神通力も、リジュ君、キミのように絶大なる力も持っていない。だけど……一つだけ特技があってね」

 なるほど。確かにそういった制約があると、力は強くなる傾向にある。さて、一体全体どんな能力をお持ちなのかな。

「週刊少年ジャンプに登場した技を全て使えるんだ! いいだろう」

 なるほど、著作権の超越か。やるじゃん捨て身じゃん半端ねぇ覚悟じゃん。

「少年時代なら誰しもが憧れたはずだ。男子小学生なら……やんちゃな女児でも、格好いい主人公の真似をしたものだろう? まぁ名称がついていない技は使えないという欠点もあるものの、能力モノに欠点は不可欠だからねぇ」

 これで説明は終わり、とばかりにマントへ貴重なジャンプ創刊号をしまった誌記。

 そして一歩踏み出したるは――リジュ。

「欠点を美徳とするのも、弱者の証ね」

 誌記も呼応するように歩き出し、二人は狭い境内にて向かい合う。

「試してみるかい? 海千山千うみせんやませんの主人公が使う技……はたして弱いかどうか」

「ふふふっ。別に、主人公達が弱いだなんて言ってないわ。弱いのは貴女達。……うん、でも面白い試みね。ちょっと私も……試したくなったわ」

 沈黙が――重く深い沈黙が辺りに満ちる。

 いよいよ始まるのか……神と宇宙人の戦いが。

 もちろん勝つのはリジュに決まっている。それはもう間違いない。ただやはり、保護者としては怪我の危険とか後々の処理とかで心配はあるわけで……。

 とにかく無事で……安全に、安心するような戦いを……!

「「ゴムゴムのぉ~!!!」」

 いきなりアウトおおおおおおお!!!!!!!

「「機関銃ガトリング!」」

「螺旋丸!」

「卍解・天鎖斬月」

「憑依合体!」

「北斗百裂拳」

飛天御剣流奥義ひてんみつるぎりゅうおうぎ)天翔龍閃あまかけるりゅうのひらめき

「か・め・は・め・波ぁー!」

復活リ・ボーン! 死ぬ気でブチ殺す!」

「ジャン・ケン・グー!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」

 交互に繰り出される絢爛豪華な必殺技達。オンパレードの大安売り。もうダメだぁお終いだぁ……。少しは自重してくれぇ……。

「お前ら! 自分の技で戦え!」

 ぜんっぜん聞こえてないけど、一応つっこむ。

 っつーかオールスターバトルでやれ。今なら絶対安いから買ってこいよ……DSとソフト。無理ならPS4で出てるやつ。

「バオウ・ザケルガ!」

「ゴミを木に変える力!」

 あっサンデー入ってきた。

「立てよド三流」

「お前の魂、いただくよ」

 ガンガンも。

「絶望した!」

「火竜の鉄拳!」

 マガジンまで。

 いつまでやんの? どこまでやんの……?

 なんて、私の疑問と心配が届いたのか、長い長い応戦の果てに、ようやく二人の、攻撃の手がぴたりと止んだ。

 リジュは珍しくうっすらと額に汗をかき、誌記とやらも肩を大きく上下させながら激しく呼吸をしている。

「宇宙人さん……貴女……」

「瓶底眼鏡さんこそ……」

 眼光鋭く睨み合う二人。

 こんな真剣な表情のリジュは見たことがない。

 いきなりどうした……?

『『同志よ』』

 言うと……がっしり握手を交わしたリジュと誌記。

 どうやら……少年漫画好き同士……気が合ってくれたらしい。

 凄いな漫画は。戦争を止めてくれるなんて。

「こんなに楽しい戦いは神になって初めてだわ」

「うふふ……まぁ私も……悪くはなかったわね」

 二人とも、ものっそいスッキリした顔してる……序盤のシリアスな緊張感はなんだったんでしょう……?

「浮世様が気に掛けるのもわかる気がします。なかなかユニークな存在ですね」

「そういうわけではないのじゃが……気は済んだかのぅ?」

「ええ!」

 こうして初めて襲来した(漫画の)神・誌記を撃退することに成功したリジュ。

 次の刺客は、はたしてどのような神なのか。命を懸けた戦いは……続くのかな、初戦こんなノリで。

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