第三章は神々とかなんやかんや編……って、え、天使編終わるの早くない!?

第15話・生まれて初めて、対象を私とした自己紹介を人間からされた気がする。

 壁に出来た穴、壊れたドアノブをリジュに修理させ、二人で教室に戻った。なんたって今日から授業がある。

 天使・外崎とのさき 道子みちことの――どちらが勝ってもおかしくないライトノベル史に残る苛烈で壮絶な――一戦を終えたばかりの私達といえど、サボるわけにはいかないのだ。

 まだHRホームルームも授業も始まっていない教室に、そこはかとなく違和感。

(何故、誰も……何も言ってこない?)

 外崎道子と名乗る変態が変態的な自己紹介をし、しかも私を巻き込んでくれた事案は記憶に新しい、というか昨日の事だ。

 それなのに、どいつもこいつも私に何かを言ってくる様子もなく、こしょこしょと陰口を叩く様子もなく、遠巻きに変態を眺めるような視線もない。

(……不気味だ)

 さっそくいじめがはじまったのか? 何かをするタイプではなく、何もしないタイプのいじめが。まぁそれならそれで好都合だが。

「よっ」

「…………」

 予想は外れたらしく、私に話し掛けてきた女子生徒。誰?

「…………誰?」

「そっかそっか。私の自己紹介の前にどっか行っちゃったんだもんな」

 彼女は、濁りきっているであろう私の瞳で見るにはどうしようもなく輝いており、その眩しさが痛かった。

「私は鴫頼しがらき れき。よろしくな」

 生まれて初めて、対象を私とした自己紹介を人間からされた気がする。こうやって同学年の人間と眼を合わせて会話をしているのも人生で初めてかもしれない。

 つまり私は、残念ながら極度のコミュニケーション障碍であり、次になんと繋げばいいのか全くわからなかった。

「その、外崎とは……なんもないから」

『私は久慈川綯子だぜっ! よろぴく!』とか『鴫頼? 名字カックイーッ! 礫? 名前もイカスーッ!』とか、もっと他に言うことがあったろうに、早速自己保身に走りやがった。

「とのさき? 誰それ」

 あんな切り出し方をしてどんな返しをされるか内心ドキドキしていたが、彼女の口から出たのは疑問だった。表情に嘘はない。

「……えと……ごめん、人違いだったわ」

 消されてるとみて間違いないだろう。これが記憶だけなのか、外崎の存在自体なのかは、わからないけど。

「あっそう。ごめんな、私よくモブ顔って言われるんだわ」

「いや……あんたに非があったわけじゃないんだけど……」

 確かに不思議な顔の作りをしている。不細工なわけではないけれど、記憶に残りづらいというか……なんというか……。

「ともかくよろしく! 成績次席だったんだろ? 私バカだからさぁ、勉強とか協力してくれよな」

「ああえっと、まぁ」

 リジュのせいでトップは阻止されたが。見知らぬ誰かに上を行かれるよりかはマシだ。

「でも……なんで知ってんだ?」

 流石にまだ成績が張り出されるような試験は始まってないし……。

「昨日君が早退したあとに、先生が紹介がてら自慢してたんだ」

「なる、ほど」

 リジュと屋上で歓談し、そのまま帰宅してしまったが上手くいなしてくれたのか。教師はどいつもこいつも頭でっかちな生き物だと思っていたがそうでもないらしい。

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