第14話・――殺してもいいに決まってるじゃない♡

「よく見ておいてねトーコちゃん。これが地球上にしか存在できない者と、全宇宙で存在でき、星一つくらいなら簡単に滅ぼせる私の差。だけど、私はトーコちゃんを愛しちゃった。もうどうしようもないくらい好き。つつけばはじけて死んじゃうような存在なのに、私にとっては一つの居場所なの。その居場所を管轄する為だったら、矛盾しているようだけど、その居場所を破壊することだっていとわない」

 私は――生きていた。

 私は――生きていた。

 だから今こうやってリジュの話を聞くことができるし、今この惨状を……視認することができている。

「話が違う……いろいろと」

 結局、リジュの顔面に直撃した矢が起こした次の事象は、爆散でも貫通でもなく、転移――転送だった。

 これは推測であり断定すらも出来ない三流推理だが、おそらくリジュの顔面にはワープホール的な何かが発現し、それと同様のモノが天使・外崎の正面にも現れ、矢は四次元空間的な何かを伝い、外崎の腹部に矢が直撃。そのまま吹き飛ばされ、屋上にある数少ないコンクリの壁に縫い付けられた。 

「うふふ、負けてあげるっていう話?」

「……こんな結末じゃいつまでも付きまとわれることになるぞ」

 外崎はまだ意識があるようで、自分ごと壁に突き刺さっている矢を抜こうと両手でもがくも、それは叶わない。矢の効果なのか、それとも痛みなのかで同情の加減が違ってくるが。

「それならそれでいいよ。いつでも挑戦してね、天使さん」

 リジュは、もう一人いた。

 外崎を――私ごと騙したこのトリックは、昨日の段階で既に使われているものの応用だった。

 分身と、被感知拒否。

 だから今、私の真後ろからリジュの声がするのは、全くもっておかしな話ではない。

「その度に地獄へ送り返してあげる」

 いや……頼もしいけども。

「……っ……ウチが……天使と知っての挑発っすか……?」

 もう、死んだ方が楽なんじゃないかと思うほどに憔悴している外崎。だが苦悶の表情は浮かべず、矢の抜き取りは諦め、ポケットからタバコとライターを取り出した。

「んーん。種族とかどうでもいいの。でもわかったでしょ? 私には絶対勝てないって。閻魔大王だかなんだか知らないけど、地球でのことは地球で勝手にやってくれるかな?」

 リジュが近づいていき、外崎が落としたライターを拾い上げ、火を点けてやった。

「先に踏み荒らしたのはそっちっすよ」

「うふふ、そうだった。でも決定権があるのは常に強者。貴女達のルールも、秩序も、刑罰も、運命も、私が決める」

「…………まぁ……同意っすよ」

 そういえばこいつ、力ある者が上に立つべきとか言ってたもんな。……めちゃめちゃブーメラン返ってきてんじゃん。返ってきたのは矢なんだけど……。なんか……ひどく同情してきた。

「見逃してくれて感謝っす。今後の動きは……協議の結果次第っすかね」

 まるで蒸発でもするように、外崎は消えていった。

 閻魔大王をデコピンで消し飛ばしたリジュの実力を知っていて、それでも立ち向かった彼女が、成仏するような展開なら胸くそ悪いな――なんて、フェミニスト気取りの自分に少し、気分が悪かった。

「傷つけないとか、殺したくないとか……あれも嘘か?」

「ううん、本当だよ。本質には『トーコちゃんに好かれたい』があるから、それを護る為なら――」

 リジュは無邪気に、その美しい容姿で、可愛らしい笑みを浮かべ、輝かしく、爛々らんらんと言い放つ。

「――殺してもいいに決まってるじゃない♡」

 理由を見つけて吹っ切れてる感がある分……前よりもたちが悪くなったと感じるのは私だけだろうか……。

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