第二章だし新キャラ登場は仕方ないけどもっとアクの弱いやつにしてくれよ!

第10話・お嬢様みたいな外見をして気怠げな口調がいいギャップしてやがる。

 長い。

 長い長い時間が経った。

 かれこれ何時間こうして体育館にいるのだろう。

「えー新入生の皆さんは……えー、これからですね、えーよりよい人生を歩むべく、えー…………」

 繰り返される『えー』が苛立いらだちを加速させる。 

 加速された体感時間により十二時間くらい突っ立っている気がしたが、時計を見たところ入学式はまだ始まったばかりだった。

(なんだかんだで……なんとかなったな)

 全校生徒の前で堂々と胸を張り、新入生代表の言葉を述べるリジュを見て思う。

 これから一体どうなることかと思いきや、存外、リジュはその過激さを薄めている。

 二週間ほど前、私がいない時に浮世と話し合いをしたらしく、無益な暴力行為は嘘のようになりを潜めた。

(なんて言ってくれたんだろうな、浮世)

 考えても仕方の無いことを考えていると、時間は徐々に過ぎていき、問題なく入学式も終え、クラス分けも発表され、教室にたどり着き、自己紹介をする運びとなった。

(ちなみにリジュとは別のクラスとあいった。いやー残念だなー非常に残念だ)

 最左前と最右後の生徒がじゃんけんをして、勝った方からスタートをするとのこと。うーん、この陽キャテイストノリ、大嫌いだ。

 結局最右後のスポーツマンらしき男が勝ち「おめーなに勝ってんだよww」など馴れ合いを経て、いよいよ始まる自己紹介。

 大した面白みもなく、むしろ薄ら寒いノリが続く反吐が出るようなクソカス空間にて延々とペン回しをしていると、私の右斜め前にいる生徒が立ち上がった。

 そいつは後ろを振り向き、ばっちり私と眼を合わせる。一言で表すならこうだ。金髪ショート碧眼美少女。

「天国と地獄の狭間はざま中出身、外崎とのさき 道子みちこ。ただの人間には興味ありません。この中に久慈川くじかわ綯子とうこ、久慈川綯子、久慈川綯子、久慈川綯子がいたら、あたしのところに来なさい。以上」

 あいたたたたたた……いてぇーいてぇやつが来ちまったよおい……。やっちゃったな……完全にだだ滑りだし誰も笑ってないし空気凍り付いてるし目も当てられないほどやっちゃたな可哀想に……。まぁそこそこ顔はいいしまだまだ挽回は見込めるか……。

「ん?」

 てか、んんん? 久慈川綯子って……私じゃね?

 どうする……順番は徐々に迫る。ここで普通に名乗れば……あの変態(仮定)と顔見知りだと思われてしまうかもしれない。だが新学期最初の自己紹介でなにも話さなければお終いだ。

 いや……そうだ、何を恐れる私。小中学校のころ友達とかいたか? いやいない。どうせこれからもできない。浮世(とリジュ)がいれば私の人生無問題(モーマンタイ)だ。

「すんません、体調悪いんで……保健室行ってきます」

 返事は聞かない。とにかく急いでここを立ち去る。

「ん、大丈夫か? お前は、えーと……久慈川――」

「ちょっ、あの、言わないでください」

「久慈川綯子だな。無理はするなよー」

 ダッシュ。視線が集まる前に教室から出る。マジでありえねぇあの教師バカバカバカ。空気読めやド間抜け。…………いや、いずれバレることだ……。あの教師がどう配慮してくれたとしてもいずれバレる。

 それを考えれば教師あいつなりの配慮かもしれない。さっさとバレてしまえ、と。その上で上手く立ち回れ、と。

「あれが久慈川……」

「どこ行くんだろうな」

「ハ○ヒのところいかなくていいのか?」

 でも最悪だ。最悪の空気だ。最悪の流れになった。どんな配慮をしてくれたところで最悪だ。自己紹介も出来なかったしあいつの同類だと思われたホント最悪。

 いやいやいや女々しいぞ私。だから友達なんていらないんだって。毛程も欲しくないんだって!


×


「じゃあ一番奥のベッド使っていいから」

「はい、ども」

 保健室にいた気怠けだるげな養護教諭は、確実に仮病と気づいていたが、あえて咎めるようなこともなかった。いい教師だ。

「失礼するっすよー」

 保健室のドアが開き、新たな来訪者が。

 ん、この声……口調はまるで違うが聞いたことがあるような……。それも今さっき。

 そしてそいつの足音は流れるようにこちらへ。もっと言えば私が寝ているベッドへ……。

「ちょっちょっと貴女、そこにはもう生徒が」

「久慈川君っすよね、知ってます。ウチの彼氏なんで」

「あらそうだったの、ごめんなさいねぇ」

 カーテンが開き、そこには先程の金髪ショート碧眼美少女の姿。ああわかっていたさ。声からして間違いないと思ったさ。

「私に彼女なんかいないんだけど」

「知ってるっす」

「あんた誰だよ。本気で関わらないで欲しいんだが」

 確かに美少女だ。顔面指数とスタイルで判断すればリジュに匹敵するかもしれない。だが浮世という許嫁がいる私だぞ? この程度で揺らぐわけもない。

「いやーそういうわけにもいかないんすよ」

 お嬢様みたいな外見をして気怠げな口調がいいギャップしてやがる。

「…………なんなんだよお前」

「話が早そうで助かるっす」

 不信感丸出し、嫌悪感たっぷりで問うてみるも、そんなことには大して意味もなかったらしく、そいつは。

「どーもどーも、ウチ、天使様っす」

 ――そう言った外崎とのさきは、不機嫌そうな笑みで犬歯を煌めかせた。

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