第5話・気持ちいいことしてもらえて良かったね、トーコちゃん

 いだいいだい痛いいだいいだいいだああああああああい! いだいいだい死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう!! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿今すぐ浮世のおっぱいを触らしてくれ! 精神が崩壊する! アホだろ馬鹿だろ脳タリンだろこの野郎馬鹿野郎リジュ野郎こんちくしょう! 絶対許さないからなお前の下着を全部縫い合わせて万国旗みたいにして校舎と校舎繋いでさらしてやるからな! いい歳して熊さんやらウサギさんがプリントされたガキくさいパンツ履きやがって!

「大丈夫? トーコちゃん」

「だめぇ……死んじゃう……お願いだから助けてリジュ様……い……痛すぎる……全身……つむじから足の指の先まで……痛くない部位がない……」

「んー……痛い?」

「痛い……やばい……てか私今泡吹いてんじゃん失禁してんじゃん。見て伝われよこの痛み……」

「偉い人は言いました」

「突然何を言い出すこの腐れ宇宙人」

「『快楽とは苦痛を水で薄めたようなものである』と」

「で? 早く助けるか殺すかしてほしいんだが」

「婚前交渉は御法度だからといって、ボノボ並に溢れるトーコちゃんの性欲を抑えつけるのはあまりにも可哀想でしょう? かといって他の女に向けられても困るから……ね♡」

「で? マジで早く殺してほしいんだが」

「痛みって愛のカタチだと思うの。うふふ、ねぇそんなに痛い? だらしないんだぁ、お漏らしまでして。でもトーコちゃんの必死な顔も、苦痛に歪む顔も……全部全部大好きだよ。気持ちいいことしてもらえて良かったね、トーコちゃん」

「…………」

 あっ、言語野げんごやが死んだ。もう言葉を発せられない。寒い。頬に触れたリジュの手がいやに冷たいのもあるけど、とにかく寒い。もうだめだこれ。でもまぁいいか、やっと楽に……なれる。

「あっもしかしてまた死んじゃう? んー仕方ないなぁ……また魂取り返しに行くのも面倒だし……」

 満天の笑みを浮かべたリジュ。そうか、ようやく助けてくれる気になってくれたか。

「よし、じゃあトーコちゃんの時間を戻して、体を元の状態にするね。治すよりたぶん早いから」

 なるほど名案だ。さっさとやってくれ。……いやちょっと待て。時間を戻す? 私、今の状態になる前どんな状態だった……? 思い出したくもないんだけど……あれ、なんか涙出てきた。

「……ま…………まっ……て、エ…………リュ」

「はーいじゃあ、始めます!」

 リジュが指ぱっちんを鳴らす。その瞬間私の体は時空を逆流し始めた。

 まず治りかけていた体がキャンセルされバラバラに。バラバラの破片が集められ冷凍仮死状態に。そっから火にくべられ燃え上がり釜ゆでにされ水責めされ縄に吊され首を絞められて……。

 無事死亡。

 あー痛みがないってだけで幸せ……。さっさと受付済ませて天国でも地獄でもどっちでもいいけど匿ってもらおう。

「うわっ脳の中、Hばっかりじゃないですか、地獄行きです」

 三途の川を渡ってすぐにある窓口にて、スーツを着た職員がちょっと引きながら私にそう言った。

「えっ天国or地獄って脳内メーカーで判断するの?」

「どこも不景気ですからね。さっ、地獄の門はあちらです。閻魔大王様がどの地獄に送るか決めてくれるので、今後はそれに沿って行動してください」

「えっ、あっうん……」

 業務的だ……。亡くなった者に悼む気持ちとかないのかな……。これじゃあ魂の方が死体より良い待遇受けてるんじゃないか……? すごいんだぞ日本人が葬式に掛ける金……。

「久慈川綯子に間違いないな」

「はい」

「では貴様の生前行った行動を見てみよう」

 閻魔大王の後ろにはえぐいくらい絢爛豪華な鏡があり、私が生まれた時からの人生が映し出された。誰が撮ってんだよこれ。アメリカだったら訴訟だかんな。

「ふむ……基本的には変態的な行動しかしておらんな」

「いやちゃんと見てくださいよ。私世界救ってますからね?」

「もしも」

「もしも?」

「あのリジュという少女が地球を滅ぼす宇宙人でなかったら、貴様はどうしていた?」

「!?」

 た、確かに……。普通にいかがわしいことしてたかも。

「そういうことだ。貴様は無間地獄経由地獄メドレー地獄ツアー地獄行きだ」

「無間地獄経由地獄メドレー地獄ツアー地獄!? 地獄がゲシュタルト崩壊して中国語に見えたんだが!?」

「さっさと行け。後が詰まってる」

「くっそ……」

 ダメなのかよ……スケベってのはそんな大罪なのかよ……。私はただ……私に尽くしてくれる可愛い女の子とイチャラブライフを過ごしたかっただけなの――

「トーコちゃん」

 ――に。

「っ」

 諦めて歩を進めようとしたその時、無間地獄経由地獄メドレー地獄ツアー地獄なんかよりもよっぽど地獄を見せてくれるであろう存在の声が――背後からした。

「え、閻魔大王様……」

「……なんだ」

「ここにいるべきではない存在がこちらに向かってきています。追い返してもらっていいですか?」

「い、いいいい、言われなくとも、そ、そうするつもりだったわ」

 めっちゃ声震えてるけど。さっきの貫禄一切ないけど。

 大丈夫か閻魔大王? いけるのか?

「あ、あのぉ」

 おっいいぞ大王、頑張れ……!

「こ、ここは、その、亡くなった地球人の方が来る場所なん、でぇ、あなたっみぃたいな異星人がくると、その、困るんですよぉ」

 イキリオタクみたいな口調だがよく言い切った。偉いぞ閻魔大――

「さっ帰ろっか。トーコちゃんっ」

 あれ? 今……一瞬で……閻魔大王消えた? リジュがデコピンしただけで? 存在が消し飛ばされた……?

「お……おう。お迎えご苦労! なんつって!」

 極めてコミカルに、刺激しないように彼女と再会を果たす。

「あはは、もうっトーコちゃんってば♡」

 もうダメだ。誰も私を見てくれない。誰も助けてくれない。襟を掴まれ引きずられる……ああでも……体はもう治ってるのか。ならとりあえず大丈夫かな……。浮世にも会えるし。うん……じゃあその、もっかいだけ回想、いってみようか。

 ええとどこまで思い出したっけ……。そうそう、リジュと一緒に暮らし始めたんだ。最初は割と平和だったんだけどな……。あいつが……ヤンデレなんて言葉を覚えるまでは……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る