first season 第五章
第19話 盲目のアイドル
「っ!大丈夫ですか!?」
誰かが自分を呼び起こす声が聞こえる。
体が揺すられる感覚と共に自分の情けなさを感じる。
普通に戦っていたら、どうなっていたのだろうか……。
勝ち方を選べる程、自分は強くない。
勝ったのに、勝った気がしない。
被害者が報われたのかもわからない。
強くならなきゃ……もっと強く……強く……。
翔弥「シンタくん!大丈夫ですか!?」
❮居間 翔弥(15)❯
目が覚めると車の中だった。
俺の体を揺する翔弥と運転をしている桜花さん。
シンタ 「んっ……。何とか……。」
❮9番隊 隊員:泉 シンタ(17)レート120❯
少し頭がクラクラする、それ以外に特に目立った代償は無い。
腹部の傷も完治してるし。それが何故か自分にとっては少し悲しい。
桜花「おはよ。シンタ。大丈夫か?」
❮9番隊 隊長:喜多 桜花(21)レート790❯
片手で運転をしながらタバコをふかすいつも通りの光景。
シンタ「桜花さん……。俺はどうやったら強く慣れますかね……。」
それは、シンタから溢れた本音だった。
頼れる人が近くにいるのはどれだけ心強い事なのだろうか。
桜花「強く……ね。シンタ。お前は何でHHAの隊員になろうと思ったんだ?」
シンタ「それは……。憧れの人と仕事をしたくて……」
あれ?本当にそれだけか?例えば古井出さんとかはどうだった?
妹が人喰いになって家族が目の前で喰われてそれで復讐の為に……。
かたや俺は何だ?ただただ、一緒の仕事がしたくて?覚悟が甘すぎないか?
桜花「本当にそれだけか?」
いや……。違う気がする…。何か、心の奥深くに閉まった何か。
見たくないものを無理矢理扉の奥に閉じ込めた。
HHAの隊員になりたかった理由。
シンタ「あと1つ……。思い出せないけど……何かがあった……。気がします……。」
桜花「んじゃそれを知れば強くなるんじゃねぇーの?」
その”深層心理”を呼び起こす、それが強くなる方法なのか?
極端に急激に強くなる事なんてあり得ないし、今は桜花さんの言葉をとりあえず信じてみようと思う。
翔弥「何ですか?あれ」
車の窓から顔を出していた翔弥が何かに気づいたように声を出す。
そこには冷たいアスファルトの上で大勢の人々が震え固まっていた。おそらく駅周辺にいた民間人だろう。
ある者は目を虚ろにさせ、またある者は恐怖心からか発狂している。
桜花「さっきの人喰いから逃げてきた一般人だろ」
翔弥「じゃあ、あの皆の前でマイク持って立ってる女の子は?」
震え恐怖をしている民間人の、前で一人の女がマイクを持って立っている
少し気になり、車を近くの道路に寄せ着ける。
「どうもっ!!皆さん!こんにちは!」
元気なハキハキとした声はその状況とはマッチせず場違い感が出ていた。
「皆さん元気が無いようですね!?私が皆さんを元気付けてあげましょう!」
その女は、フリフリとした白のワンピースに少しピンクがかった赤色のショートカット
翔弥「あっ!あの人知ってます!」
翔弥が指を差し、そう声を上げる。
シンタ 「知ってるの?」
翔弥「最近有名な関西出身のアイドルですよ」
翔弥 「名前は確か……」
女は天に拳をつきだし、仁王立ちで叫ぶ。
姫川 「私は今話題の!”盲目のアイドル”姫川 利菜です!」
元気よく飛び出したその自己紹介は会場の雰囲気を明るくする所か更に殺伐とした逆効果となった。
「こんな時にそんな事言ってる場合か!?」
そんな怒号が飛び交い、空き缶やゴミ等が投げられる。
無理矢理雰囲気を明るくしようとした事が逆効果となったのだ。
姫川 「ちょ!待ってって!イタッ!」
腕で顔を覆い隠し当たってくる物を何とか必死に耐えている。
シンタ「桜花さん。あれ、助けた方がいいんじゃ……。」
そう言い振り向くと既に桜花はいなかった。
決断と行動のスピードが一緒菜のだろうか?それ程のスピードで直ぐに動ける彼女はやっぱり凄いし、カッコいい。
桜花が女に近づくと周りがざわめき出した。
「誰だあれ」「あの女の知り合いか?」「見て!あのジャケット!HHAの人達だ!」
桜花は女の手をそっと握り前を大勢の群衆の方へと向いた。
桜花「皆さん落ち着いてください!私はHHAの者です!」
そう言い空いた右手で胸ポケットからパスポートを見せる。
桜花「駅で発生した人喰いの脅威は去りました!なのでもうすぐ貴方達は無事に家に帰れます!安心してください!我々、HHAが着いてます!」
桜花の素晴らしい演説は5分だけだったがその場の雰囲気は直ぐに好転した。
最初は疑心間があったようだが徐々に晴れていったのか桜花の言葉を信じ、何とか収める事が出来た。
※※※※※
姫川 「もうほんまに嫌や……。」
車の中で両手で顔を覆い隠しながらそうポツリと呟く彼女。
姫川「利菜そんなつもりちゃうのに…何で皆あんな事言うん……?ほんまにしんどい……。」
そう言い声を震わせている。彼女にしてみれば、ただ周りを元気付けようとしただけだった。
悪気の無い善意程程、ふとした時の逆鱗に触れるのかも知れない。
桜花はふと訪ねる。
桜花「君、目。見えないの?」
姫川「そうやけど…?やから、ずっと目閉じてる。」
桜花「苦労しないの?」
姫川「生まれた時からこうやったからこれが当たり前みたいなもんやし。苦労した事無いな……。」
桜花「なるほどね。ありがとう。」
そう少しお礼を言うと姫川は不思議そうに少し頭を傾ける。
桜花「それでさ、利菜ちゃん。相談なんだけど」
桜花「HHAの隊員にならない?」
シンタ&翔弥「えっ?」
同時に振り向いたその先は桜花の笑顔だった。
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