第17話 勝つ方法

「おがががぁぁぁあざぁさぁんんん?!?!」

その鉛のように重い悲鳴は心の奥底まで響く。

あまりの大きな声には耳を塞ぐしかない程に。


シンタ「ッ!」

❮9番隊 隊員:泉シンタ(17)レート120❯

正面から刀を抜き駆ける。両手で強く握った刀で目の前の巨大な顔面を切り裂こうとするが、ドロドロの体から生えた何本もの触手が邪魔をして急所まで刀が届かない。

防御に徹していた触手とは別に何本かがシンタを直接狙う。

切っては再生し切っては再生、距離を詰めすぎたためか間合いが合わなくなりじりじりと後ろへと押し戻されていく。


シンタ(腕が疲れる……。体力が持たない……。)

2本を連続で切ったその隙に刀を納め後ろに走る。

再生した触手と元からあった数本が走るシンタを後ろから追う。


シンタ(どうする?どうすれば……)

後ろから追う触手を警戒しながら駅の中を走る。

何処まで行っても追ってくる。

触手に目でもついてるのだろうか?


その様子を気配を消した翔弥は遠くから監視をしていた。

翔弥「あのままだと負けるな……。シンタ君。」

❮居間 翔弥(15)❯

最初に相手の出方を考えずに突っ込んだ結果、相手に対応しきれず全てが後手後手に周り!逃げるしか無い。

翔弥「何でこんな奴を欲しいんだ……。?」

エデンが必要以上にシンタを狙っている理由が翔弥にはイマイチ分からなかった。


シンタ「くそッ……。」

逃げるシンタからはそんな声がこぼれる。

変に気持ちが入ったからか空回りしてしまった。焦って攻撃を仕掛けなければなよかった。


柱を盾に姿を隠す。

もうずいぶんと走った。

シンタ(はぁはぁはぁ……。)

息切れをお越しながらも柱の裏から様子を伺う。

触手はシンタを見失ったのか元の人喰いへと戻っていく。


柱から柱へと移し徐々に距離を詰めていく。

何とか気づかれずに元の人喰いの手前まではこれたが、。

シンタ(あの触手……どうすれば……。)

一度見つかれば死ぬほど追ってくる。直線上にずっと。

カクカクと動きを変えながら。

考えろ……。


ふと桜花の言葉を思い出す。

桜花「戦いっていうのはな、”読み合い”だよ」


読み合い……。相手は人喰いだし本能的に動いてるから読み合いなんて……。

いや?むしろ本能的に動いてるからこそ……。

一回試してみよう。

シンタ「来いよ!」

シンタは挑発するように柱から飛び出した。


「おがががぁぁぁあざぁさぁんんん」

悲鳴が聞こえると再び体のあちらこちらから触手が伸びてくる。

一直線にシンタを目掛けて襲う。

再びシンタは走り出す。


翔弥「また逃げるの?何がしたいんだ?」


直線に追い掛けてくる触手をチラッと見ると、その場で立ち止まる。

シンタは追い掛けてきた触手の方を向いて走り出した。

翔弥からすると自殺行為のように見えた。

翔弥「アイツ何してんだよ!」

翔弥がシンタの所へ行こうとした時だった。


シンタは刀を抜き両手で構え走りだす。

一直線にきた触手は急に止まったシンタの刀に対応しきれず真っ二つに切られていく。

伸びてきた1つの触手は二つに裂かれ、そのまま前に走り抜く。

力強く刀を握りながら縦に真っ二つに切り進んで行く。

追ってきた触手が逆に道になる。

シンタ「んんッッ!!」


相手が本能的ならこっちは予想外の動きで対応する。

コイツは逃げると人喰いに思い知らせる事によって、自分が攻撃をされるといえ危機感を薄めさせる事が出来る。


「おおぁぁぁああああぅうぃぃあッッ」

人喰いは切られていく激痛に耐えきれずに大きな悲鳴を上げる。


シンタ(ここだッ─)

シンタは上にジャンプした。

切り進んで行く内に人喰いの懐に来ていた。

刀を斜め上に振りかぶり勢い良く人喰いに斬りかかる。


血が飛び散った。

その血は自分の血だった。

シンタ「あっああぁ……。」

人喰いは笑っていた。懐に1本だけ小さな触手を隠していたため、飛びかかったシンタの腹部を貫通していた。


翔弥「やっば!!」

翔弥は目の色を変えてシンタの方へと勢い良く走り出す。


腹部を貫かれ下を向いているシンタ。

人喰いはシンタに大きな口を開けて喰らおうとする。


翔弥「間に合わないっ!」

翔弥「シンタが死ぬ─」


醜い顔面を覗かせ、見るも無惨なドロドロの巨大な体はシンタを丸飲みせんとばかりに頭からかぶりついた。

かぶりついた瞬間、人喰いの頭が爆発した。膨大な量の血と共に肉片があちらこちらに飛び散り、体からは黒い煙が昇る。


翔弥「えっ……。何で……?」

目の前に到達した時、何がなんだか全く分からなかった。

喰われたと思った。

今の爆発は一体なんだ?


黒い煙と共に体が消えていく。

シンタを刺していた触手も消えてシンタは地面に落ちた。


翔弥「あっ!シンタくん!」

翔弥は呆然としていたがシンタが落ちた瞬間ハッと目を冷ましたようにシンタに駆け寄る。


翔弥「シンタくん!大丈夫ですか!?」

寄り添った翔弥はシンタの表情を見て驚きを隠せなかった。


シンタは泣いていた。

シンタ「こんな勝ち方しか……。思い付かなかったから……。」

シンタ「こんなやり方で倒しても、被害者も報われないよな……。」

人間じゃないという言葉と共に貫通した腹部を見ると、ブクブクと再生を始めていた。


そしてその瞬間、翔弥は悟った。

あぁ。なるほど。エデンが狙っている理由が分かった気がする。と。


翔弥「とりあえず、帰りましょ?おぶりますから。」

シンタ「ありがとう……。」

倒れたシンタを抱え歩き出す。

その時。今、シンタをエデンに連れていけば……という考えが浮かんだ。

ここだ。タイミングはここしかない……。


今シンタは疲れきっている。桜花の元に戻ればこんなチャンス、もう巡ってこないかもしれない。

翔弥「今しかない……。」


そんな思いを抱えながら駅を出た瞬間だった。

九鬼「その隊員。この場に置いていってはくれないか?」

赤い目をした黒いローブの男に後ろから声を掛けられた。

ハッとした表情でそちらを見返す。

九鬼「逃げたらこの場で君を殺してその隊員を貰う。」

❮解放軍:九鬼 弥一(19)レート770❯


翔弥(赤目。コイツ……確か……解放軍の……!)

何でよりによって何でこんな強い奴がシンタを狙ってんだ!?

最悪だ……。こんなタイミングでこんな……!

絶対勝てない……逃げきれない……殺される。

足が震える。

翔弥「だ、誰がお前らなんかに渡すかよ!?」

震えた声で叫びながらシンタを背負って一生懸命走る。

翔弥「くっそ!最悪だっ!」


九鬼「それは残念だ……。」

シンタを背負いながら走る翔弥に向けて、後ろから右手を広げる

九鬼「空圧」

地面をえぐるような空気の圧力の塊。

アスファルトはめくり上がり、それは秒もしない内に翔弥に襲いかかる─


翔弥は死を覚悟しそちらを一瞬見た。

そこには誰か1人立っていた。


ほんの数秒の出来事だった。見たことのある仮面をしている小柄な少女は余裕そうにその衝撃波を片手で止める。


驚きを隠せなかった。

翔弥(あれって!!何で!?けど、今は構ってられないッ!とにかく逃げるしかない!)

全速力でその場を走る翔弥


九鬼「エデンか……邪魔をするな……」


ピエロ「ハロ~?こんにちは~?」

❮エデン:ピエロ(??)レート760❯

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る