第13話 刺客

武器としての強靭さはもちろん、美術品としての美しさもかね備えているのが刀。

それは自分の身を守るという点では強く心許ないが、それは時に、誰にも制止出来ないような最悪の凶器となる事もある。


1つの明かりが灯すだけの薄暗い廊下に立つ長い刀を持った少年と女性。

女性は胸ポケットから右手一杯分の小さな箱を取り出すと、中から1本を取り出し唇の間に挟む。

ポケットから取り出したライターをカチッと鳴らし唇に挟んだそれにつけると、ため息の後に口から上がる白く濃度の高い煙。


桜花「お前、やっぱまだ子供だな」

❮9番隊 隊長:喜多 桜花(21)レート790❯


翔弥「何処から気付いてたんだ……」

❮エデン:居間 翔弥(15)❯

息を呑むように訪ねるのも無理はない。自分の計画は完璧だと思い込んでいた。バレるなんて一回も考え付かなかったからだ。


桜花「お前、私らに飯だしたろ?あの時に確信に変わった。」

食事、それは人間も人喰いも完全に無防備になる瞬間

桜花「飯に睡眠薬入ってたから私は食わなかったけどな」


翔弥「人が作った料理を疑うなんて性格悪いなアンタ……」

心が落ち着かないのか動揺を隠しきれないのか声を震えて言葉を放つ。

翔弥「って事は……目的も……?」

ハッと息を呑むように問いかける。


桜花「まぁ、あれだよな。」

桜花「寝込みに私ぶっ殺してシンタだけ持ってくって事だったんじゃねぇーの?」

得意気に語った予想は紛れもない事実で大当たりだった。

真実を射貫かれジッと固まったかのように動かなくなる翔弥。

そして、ポツリと一言


翔弥「なら今ここでアンタを殺してシンタを連れていく」

刀を両手で構え、狭い廊下に1本の居合いを作る。


桜花「おう。来いよガキ」

桜花は余裕満々に手の上でライターを踊らせている。


翔弥「……」

黙る翔弥はゆっくりと闇の中に姿を消していく。

桜花の目の前の廊下には誰も居なくなりその場には桜花”1人”となった

桜花(どんな才能だ……?)

対人の場合、まずは相手の才能を見極める事から始まる。才能が露見するという事は自分の弱点を相手に理解させるといっても過言でも無い。

つまり、最初に動いた方が負ける確率が高い。


音もなく薄暗い中、背後から現れた翔弥はその一歩で力一杯、刀で切りかかる

桜花(あぁ…そこか)

力一杯右上から斜め下に振り下ろした刀を見えているかのように左手には数十センチの短い短剣。秒も経ってない出来事だった。直ぐさま後ろを振り向き短剣と刀で火花を散らす。


翔弥(んなっ!?)

対応されるハズのない一撃が対応される、。

余裕が無くなり焦りがでてくる。

動揺を隠しきれずに後ろにまた引き下がる。

翔弥「……」

再び闇に姿を消していく。

その場には2人いるハズだがそれを感じさせないかのように辺りが不気味な程に静まり返る。


桜花(次は右下から……)

姿を徐々に表した翔弥は刀を桜花の脇腹めがけて斜め上に切りつけようとする。

翔弥(!?)

桜花はそれを見越したかのようにしゃがむと刀が桜花の上を通りすぎる。

下から短剣で狙いを定めて手元を打つ。

切り上げた後だったため何とその攻撃には対応出来たが、ガードで精一杯だったためか後ろにのけぞる。


桜花はそれを見て短剣を上に投げる

戦闘中に武器を手放したのだ

翔弥(何でコイツ……武器を……)

相手に武器が無い。それは慢心を呼び起こす。

動揺が高揚に変わった。

今がチャンス--

姿を消さずに1歩目、瞬時に桜花の懐に入り刀でなぎ払おうとするが、それを見越したように桜花は下にしゃがみ込み、避ける。自慢の右足で翔弥の軸となる足を勢いよく蹴りあげると翔弥はバランスを崩し、その場に勢いよく転倒する。

馬乗りになり落ちてきた短剣を左手に拾い翔弥の喉元に突き刺す。


桜花「はい。私の勝ち。」


翔弥は感じた。-この人は強い-

その感じ方はただ強いと思った訳では無い。

越えられない壁。今まで戦ってきた人間よりも人喰いよりも一番強い。


翔弥「俺をどうするんだよ……殺すのか?……」

橫になっている翔弥は目線を桜花からそらすように右橫に向く。


その言葉を聞いて桜花は少し笑みを浮かべる。

桜花「とんでもねぇーよ」

桜花「お前、仲間になれよ」


翔弥「ふざけんなッ!誰がッ……!」

その言葉を遮るかのように桜花は続ける。


桜花「多分だけどお前、”捨て駒”にされたぞ」

桜花「1人でシンタを連れて帰って私を睡眠で殺す?無理だろ普通。」


翔弥は少し黙り込む。どこか最初からな心当たりはあった。

エデンに生まれてから自分はずっと最下層の人間だった。そんな時、突然声をかけられた。

ピエロ「ボクと一緒に行こうぜ?」

そこから才能を無理矢理身につけた。

それが人を殺す為なのか、人喰いの為なのか。理由は話してくれなかったが小さい頃からの英才教育は自分を強くした。それは感謝をしていた。


だが少し前に話し声を聞いた。ピエロとボスの会話。

ピエロ「あぁ。翔弥きゅん?あれはダメだよ弱すぎる。」

ピエロ「死んでもらって構わないかな」

その言葉は、ずっと信じていた自分に大きな衝撃を走らせた。

そこから悩むようにずっとエデンに居続けた。

そして、ピエロの今回の任務を頼まれた。


翔弥「……心当たりはある……」


桜花「仲間にならない?」


翔弥「でもそんな急に仲間にって……」


桜花「なら提案だ。」

そう言い自慢げに笑みを浮かべる

桜花「私らはエデンをぶっ潰す。その為にはある条件をやらなきゃならないんだけど」

桜花「私らがその条件をクリア出来なかったらシンタを連れてエデンに帰っていい。」


翔弥「シンタをエデンに……」

それは彼にとってとても魅力的な条件だった。

エデンにシンタを連れていく……。そうすればエデンでの自分の評価は変わる。上から認めてもらえる。周りを見返すチャンスとなる。


桜花「逆にその条件をクリア出来たら」

桜花「お前も一緒にエデンを潰せ。」

そう言い笑みを浮かべる。


その提案、翔弥にとっては現状変化と思った時にはとてもありがたいほどだった。

その条件を出来ないように邪魔をすれば全て上手く行く。

その条件とやらを失敗させればいい。


翔弥「分かったよ……それでいい……」

翔弥「アンタらの仲間になるよ……」

渋々承諾したかのように見えたが実際はチャンスとしか思っていなかった。


桜花はその答えを聞いた瞬間に、談笑をし始めた。

翔弥は少し戸惑いつつも話を続けた。

この人は、エデンの大人とはまるで違う。

話し方、その切り替え、相手を傷つけない戦い方。全てにおいて。

翔弥少し安堵の表情を浮かべていた。

その表情は、エデンに手柄を持って帰れるという顔なのかそれとも違うのか……。


一軒家のその直ぐ後ろの木の上に1人の女が枝に寝転がっている。

ピエロ「いい感じ」

❮エデン:ピエロ(??)レート760❯

唇をペロリとなめ回したその仮面は不気味な笑みを浮かべていた。



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