第14話 内通者

大きく上がる黒い煙と爆発音が鳴り響く高層のビル群。

古井出「はい。こちら古井出。何ですか」

❮8番隊 副隊長:古井出 貴章(19)レート660❯

キリッとしたスーツを身に纏い、耳に手を添えながらビルの屋上から屋上へと飛び移る。


柿崎「古井出さん。こっちは終わりました」

❮8番隊 柿崎班 班長:柿崎 玲央(18)レート560❯

ヘッドホンを耳に当てながら話すその青年は、とても生真面目で勤勉だ。

HHAのジャケットをなびかせながらその短く切った髪をかきあげる。

柿崎「合流しますか?」


古井出「いや、いい。玲央はそこで待機。」


柿崎「了解です。」


通話が切れた古井出は軽いため息をついた後、目を閉じる。

その時を待っていたかの如く後ろからとてつもなく浮腫んだ顔面をした何かが足を忍ばせてくる。

大きな額に何本もの触手。立ってるのがやっとのくらいの小柄な体はその不気味さを強調させる。


古井出が目を開け、後ろを振り向く。


「ごべんだざぁぁい」

泣きわめくかのようにそんな鳴き声をあげる異形の怪物。

その大きな口を開け今にも古井出を呑み込もうとする。


古井出「あっち向いてホイ」

そう言い相手の顔を指し、指を右に向ける。

怪物の顔は完全に右にねじ曲がった。

何の音も無く折れた首。怪物は鳴かなくなっていた。

怪物からは黒い煙が昇る。


古井出はその様子をみてさらに怪物に近づく。

古井出「あっち向いてホイ」

今度は左に顔を曲げた

古井出「ホイ」

今度は上に

古井出「ホイ」

今度は下に

古井出のホイという掛け声と共にもう既に死んでいる怪物はいろんな方向に顔がぐねんぐねんとねじ曲がっていく。

古井出には返り血が浴びせられるも微動だにせずホイという声を掛け続ける。

感情が無いかのように。


そんな時に、2回ほど肩を叩かれた。

ハッと振り替えると首元に長く鋭い刀が突き付けられていた。

「下手に動くな。用件だけ伝えてやる」


古井出「あぁ。君か」

どこか見た事のあるような気づき方だった。

その特徴的な赤色の目。

元2番 副隊長。現解放軍。

❮解放軍:九鬼 弥一(19)レート770❯


古井出「それで。用件って?」


九鬼「貴様ら偽善者に粛清を下す。その全段として1人、人質をもらい受ける。」


古井出「用はそれだけか?」

話の途中に古井出は隠しながら指を少し曲げていく。


九鬼「HHAに伝えろ。人質を返してほしくば”決戦”に備えろとな」


2人の緊張状態が続く。

その瞬間、古井出は動いた。

古井出「あっち向いてホイ」

指を曲げたその先は九鬼の足元だった。


九鬼「どこを狙っている。」

九鬼はその長い刀を高速で振りかぶった瞬間だった。

九鬼の足元が崩れ始め、瞬く間に屋上は崩壊。高い高層のビルの上からまっ逆さまに落ちた。


地面には崩壊した屋上の破片やガレキが落ちている。

舌打ちをする九鬼は上から眺める古井出を睨み付けると落ちる寸前に煙と共に姿を消した。


古井出「めんどくさ……」

言葉から溢れたその本音は滅多に出ない素の自分。


柿崎「大丈夫ですか?」

耳元に柿崎のそんな声が聞こえる。


古井出「あぁ。俺は大丈夫だ。」


柿崎「ならよかったです。びっくりしましたよ。離れて見てたらビルが爆発してたから……」


古井出「仕事は終わりだ。帰るか。」


柿崎「了解です。先に車に戻っときますね。」


通話を切った古井出は崩れたビルの屋上で1人黄昏る。

強い風が吹いているのかスーツが揺れる。

ポケットに両手を突っ込み何か考えている様子。


”人喰いは殺す”それは彼が心に刻んだ決まりごとのような物だった。

だが対人となれば話は別だ。

殺人は家族を食い殺した人喰いと同等のレベルまで落ちると思っている。

人喰いという”明確な敵”それが人間となれば自分は動けなくなる。

自分と同じ思いを持っている人物はHHAにはたくさん居るだろう。

戦争となったら、人間を殺すとなったらHHAは……


最優先は人質を取られない事。

そして

古井出「内通者をあぶり出す」

そこから古井出は上に報告せず、水面下に動き出した─


ボロボロでどこもかしこも崩れかかっている薄暗い古い建物。

そこに音もなく現れる1人の男。

弥一「今帰った。」


その場に居るのはガタガタの椅子に座るスタイルの良い女。

腕を組、仁王立ちをしている大男。

そして、ハットを被った若い青年。


弥一「人質を取る趣旨は伝えた。後は誰を取るかだ。」

その言葉に反応するかのようにハットを被った青年がある案をだす。


???「HHAに新入隊員が入ったじゃん?」

???「その中にね、桜花の部隊に入った子がいるんだよ」


そこ青年はやけにHHAの内部事情に詳しい。

弥一「桜花の部隊の隊員か」

???「そう。だからさ、その新入隊員1人なわけじゃん?メンバーは」

???「その子狙ったらいいんじゃない?」


弥一は人呼吸起き、顎に手を置く。

弥一「そうだな。ソイツを狙うか。」


弥一「ありがとう。お前は引き続きHHAに潜入してくれ」


???「役にたてて嬉しいよ。」

その青年はHHAと解放軍の内通者。

つまり、裏切り者だ─

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