第12話 正体

シンタ「桜花さん……」

❮9番隊 隊員:泉シンタ(17)レート120❯


桜花「何だ?」

❮9番隊 隊長:喜多 桜花(21)レート790❯


シンタ「ここ……どこですか……」

力無く放ったその言葉の先にあるのは何もない田舎道。

街灯もほぼほぼ存在せず見渡す限りの田んぼと山。

新幹線で約2時間。距離にしておよそ380キロ

山形の奥。

こんな場所に2人は用事があったのだ。


桜花「ここらへんに来てくれって……」


シンタ「あの?はめられてません?」

その一言でハッとした表情で立ち止まり見つめ合う2人。

辺りが静まり返ったその時だった。

後ろから1人の元気な青年の声が聞こえた。


「あのー!すみませんー!」

そんなハキハキとした元気な声。

ハッと振り返るとそこにいた青年の特徴としてまず一番早く目に入ったのは、ストレートな髪から右横にピョンと飛び出ているそのアホ毛

身長は小柄で、160cmくらいだろう。


桜花「あ?誰?」

不思議そうに訪ねる桜花とシンタ


翔弥「HHAの人ですよね!自分!居間 翔弥!15です!」

❮居間 翔弥(15)❯


再び見つめ合う桜花とシンタ。

シンタ「君が入隊希望の……?」


翔弥「そうです!あの!よろしくお願いします!」

戸惑う2人に彼は入隊を希望している理由を話した。


彼は昔から人喰いとは無縁の人物だったという。

だが、そんな時。事件は起きた。

東京への観光のその日に起きた”13人連続殺人事件”。そう、あの百鬼夜行を起こした大惨事のキッカケの事件。

抑圧されてどんどんと周りが人喰いになる中、自分を逃がしてくれた父が目の前で人喰いに食われた。

そして、その光景が今も脳裏に焼き付いて離れない。

その時に誓った2文字の言葉

「復讐」

それ以来、HHAに入隊するために自分で自分を追い込み、磨きをかけてきたという。

特別推薦のコネなんか無いし、訓練学校に通っていっていては遅すぎる。

そこで、こういった機会が来ることを待っていたという。


桜花「復讐のため……か……」

その話を聞いて少し雰囲気が重くなる。

誰かしらそれぞれに、理由がある。


田んぼ道を3人で歩いているとある和風の古い一軒家が見えてきた。

シンタ「どこ行ってるの?これ」

さりげなく行き先を訪ねるシンタ。


翔弥「いや、家に案内しようと思って」


桜花「え?何で?」


翔弥「はるばる遠い所から来てもらってたので、せめて、一晩だけでも泊まっていって欲しいなって……」

長距離の移動で気づけば夕方に差し掛かっていた。

切なそうにそうお願いする翔弥を見て少し悩む。


桜花「私らはいいんだけど……。親は?大丈夫なの?」


翔弥「親は出稼ぎに行ってて……。明日には帰ってくると思います。」


桜花「しゃーないな!いいよ!」

悲しそうにしているのが耐えきれなくなり元気よくそれを承諾する桜花。


翔弥「ただいま」

そんな声と共にその古い和風の一軒家の引戸をガラガラガラと開ける。

中は薄暗く細い廊下だった。

歩くとミシミシと床が音をたてる。


翔弥「とりあえずここに座っててください」

そう言って案内された部屋は小さなちゃぶ台を中心にかなりこじんまりとした部屋だった。


シンタ「めっちゃ古いですね……。」


桜花「めっちゃ古いな……」

桜花「あっ!待って!?」

突如として声を上げる桜花


シンタ「どうしました?」

顔を覗き込むように訪ねる


桜花「私、和式でトイレ出来ない!」


シンタ「急に何ですか……」


桜花「いや!大事な事だろ!そんな冷静に返さなくても!」


そう言って、たわいもない会話で談笑している

たまにはこういう、くつろぐのも悪くないなと思う2人。


コンコンというドアを叩く音と共に、翔弥が料理を持って入ってくる。

翔弥「飯食うでしょ?作りましたよ!」


桜花「お前すげぇな!家に入ったら料理担当にしてやるよ!」


ちゃぶ台におかれた翔弥手作りの料理。おわん一杯の白米と味噌汁。秋刀魚の塩焼き。和風の定食の定番のような料理だった。

翔弥「さ!食べてください!俺は布団の準備してきます!」

そう言って再び部屋を後にする

働き者という言葉が一番似合だろう。その様子を見て桜花とシンタは感心していた。


ご飯が進むシンタ。かたや全く食べてない桜花。

少し気になり問いかける。

シンタ「桜花さん、全然食べないですね?」


桜花「ん?あぁ……。私、魚嫌いなんだよ」


シンタ「好き嫌いあったんですね」


桜花「いいだろー別によー」

桜花は少しシンタに近づき小声で話しかける。

桜花「シンタ。ちょっと話があるんだけど」


シンタ「……はい?」

耳をかたむけ返事を返す。

それから数分が経ち、再び翔弥が部屋に戻ってきた。


翔弥「布団用意出来ましたよ!あと!お風呂も!」

そんな元気な声を1日中ずっと続けているんだ。普通に凄い。


桜花「あっ!じゃあ私先に入りますー」

先に風呂に入る桜花。場は、シンタと翔弥の2人だけとなった


シンタ「翔弥?はさ、才能とか持ってるの?」


翔弥「……才能……ですか?何ですかそれ」


シンタ「えぇ…っと。人喰いを倒すための特殊能力?みたいなもの。それ無いと入隊出来ないから」


翔弥「特殊能力……。」

そして、思い出したかのように返事を返す。

翔弥「あぁ!ありますよ!ありますよ!」


シンタ「どんなの?」


翔弥「また戦う時に教えますよ!」

何か隠してるような気がして少し引っ掛かった。


そして、辺りは暗く静まり返り風呂を上がったシンタと桜花はその晩。敷き布団で寝ていた。

真夜中だろう、ぐっすりと熟睡する2人。

横には荷物が置いてあり、そこにはシンタの刀もあったハズだが消えていた。


ゆっくりと忍び寄る足音。ドアの前に立つ男の右手には長く鋭い凶器。


「……。これで……俺は……」

そんな声をポロリと漏らし引戸に手をやる。

そんな時だった。

何者かの気配が後ろから感じたのは

「ッ!?」

とっさに後ろを振り向く。


桜花「よう。翔弥。」

その瞬間、廊下の少しの明かりが灯る。


翔弥「うわぁ……。マジかよ」


桜花「お前やっぱり何処かで見たことあるんだよな」


翔弥「どこかって……どこで?」


桜花「そんなんお前が一番よく知ってるだろ。」

2人の探り会いが続く中、桜花は直球に質問する。

桜花「お前”エデン”だろ」



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