第10話 訓練

水谷とシンタ。お互いに牽制をし合う。

力強く握った木刀を構えながら、一定の間合いを空ける。

桜花「始め」

❮9番隊 隊長:喜多 桜花(21)レート790❯


水谷「いくっスよ!」

❮1番隊 水谷班班長:水谷 香織(18)レート510❯


シンタ「お願いします」

❮9番隊 隊員:泉シンタ(17)レート120❯


まず1歩目は水谷が踏み出した。

踏み込んだ右足を方切りに腰深くから体全体を使って右斜め上から振り下ろす


とっさに避けようと構えた木刀を盾に後ろにのけぞる。

その勢いで2歩3歩下がった所間髪入れずに二撃目、三撃目を繰り出す。

相手の動きを見る余裕もなくギリギリで追いつくガードで精一杯だった。


この人は強い--

それはシンタが戦って直感的に感じた印象だった。班長という役職は伊達じゃない、班長の強さというのも実感した。

その分、この人が桜花に瞬殺されたとは考えられない。それほど隊長と他の隊員の力の差は歴然なのだろう。


水谷「とった」

水谷の木刀が腹部を狙う。とっさに腹部の前でガードしようと木刀を出す。

水谷はそれを見越したかのように腹部から斜め上に、シンタの喉元へと軌道を変え、めがけて打つ。


桜花「はい!香織ちゃんの勝ち!」

桜花の一言で水谷は喉元から木刀を離した。


水谷「流石に負けないっスよ!」

ドヤ顔で肩に木刀を乗せる。

呆然としているシンタに声をかける水谷

水谷「もっかいやるっスか?」


木刀を再び強く握りしめたシンタ

シンタ「お願いします……!」

その後、何十回と相手をお願いするが全敗。

完膚なきまでに叩きのめされた。


桜花「今ので香織ちゃんの14勝0敗ね」

共に汗だくになる2人を見て少しの休憩を提案する

桜花「一回休憩挟んだら?」


水谷「自分もそろそろ疲れたっス……」

水谷は木刀を地面に置き、前屈みに少し座ってその場で休憩をし始めた。


シンタ「……休憩前……最後にお願いします……」

疲れはてた声でそう言ったシンタに悩みながらもそれに答える水谷


水谷「しゃーないっスね……次で最後っスよ…」

そんな言葉と共に地面に置いた木刀を再び手に取り、立ち上がる。

気持ちだけじゃどうにもならない事だってある。


現状を見定めて、時には諦める事も重要だ。

シンタは自分の力量を分かっている。ただ、負けたままなのが嫌なだけだった。


桜花「15本目……。始め。」

その言葉で両者再び交え合う。

水谷が一歩二歩とやはり有利に進めていく展開

だったが……


水谷「はいっ。15本目っス。」

シンタ「危なっ!」

いつもなら入っていた1本。気づけば体が勝手に動いていた。

攻撃を止めた瞬間、時が止まったかのようにゆっくりと動く。


水谷「これで最後っス!」

左足下からくる一撃をまた受け止める。

腰、手首、足元。シンタは少しずつだが水谷の剣裁きが見えてきていた。


水谷 (あれ?対応されてきてる……?)


桜花「へぇ……やるじゃん……」

ポツリと呟く桜花には笑みが溢れていた。

1歩2歩。気づけば徐々にではあるが水谷を押し返していた。


シンタ「ッ!」


腰から喉元へとかけて振り上げた渾身の一撃。

間一髪で顔をのけぞり交わす。

水谷 (うわっ!あっぶな!!)

その勢いで木刀を再び振り下ろすシンタ。

水谷 (ヤバッ!!)


桜花「あっ」

腕を組み、見ていた桜花がそう言葉を漏らす

……

桜花「はいっ。15対0。香織ちゃんの勝ち」

その合図で息切れを起こしたお互いが共に座り込む。

最後の一瞬、振り下ろした木刀の前に水谷がシンタの喉元へかけて直前を突き刺していた。

攻めに転じすぎたため隙が出来ていたのだ。

”勝てる”その一瞬の慢心が死をよぎらせる。

座り込んだ水谷の表情は唖然としていた。


桜花「おうっ。惜しかったな!シンタ」

ゆっくりとシンタに近づき水を渡す。


桜花「それと、香織ちゃん。」

水谷「ひぃ……ひぃ……あっ……はい……?」

桜花「やーい!負けかけてるじゃん!」

水谷「マジ危なかったッス……」

ちゃらける桜花を横目に息切れをしながら真面目にへこむ水谷。

班長と一般隊員。力の差は歴然だったが一瞬でも見せたその可能性は無視できないものだった。

そんな時だった。真っ白のトレーニングルームに2人の男が足を運んできた。


「ちぃーす!何してるんすか!」


「何か面白いことやってますね。」


キチッとしたスーツに金髪で散らかった髪型の男とストレートで黒髪の真面目そうな男の2人。

身長はどちらも同じくらいだろう、高身長で一言でいえばどちらもタイプの違うイケメンだろう。


桜花「あれ?珍しいな?お前ら暇か?」

不思議そうに訪ねる桜花。


金子「暇も暇!ちょう暇っすよ!」

❮4番隊 金子班 班長:金子 航也(19)レート580❯


古井出「僕は付き添いですよ。この暇人の。」

❮8番隊 副隊長:古井出 貴章(19)レート660❯


ポケットに手を突っ込んでいるちゃらそうな金髪の金子

クールで真面目な古井出

それがこの2人の最初の印象だ。


金子「なにしてるんすか?」


桜花「あ?えぇーっと。新人訓練。」


金子「あ!この子が例の隊員か!」

そう言い嬉しそうにシンタ近寄る。

ポケットから手を出し握手を求める。

金子「よろしく!新人!」


シンタ「あっ、。はい……」

疲れていたのか、ゆっくりと握手を交わすシンタ。

シンタ「あの、先輩の名前。聞いてもいいですか?」


金子「俺は金子。んで、あっちのぜんっぜん喋らんやつが古井出」

指を指した方向にはあのクールな男。

古井出「どうも。」

そう言い少しペコリと頭を下げる。


桜花「貴章。どうしたんだ?絶対暇で来たわけじゃないだろ?」

横で言葉を交わす古井出と桜花。


古井出「鋭いですね。暇じゃないです。」

そう言いゆっくりと、スマホを取り出す。

パパパと指で触り、何かを桜花に見せる。


そこにあったのはつい先日、丁度喰われて再生中だった時の顔の欠けたシンタの写真だった。

古井出「面白い才能持ってますね」


桜花「この写真……どこで誰が……」


ドームが張っていて誰も何も干渉出来なかったハズ。

なぜこの写真があったのか。

謎が謎を呼ぶ。

この写真どこで……そんな言葉を遮るかのように口を開く。


古井出「僕、この新入隊員。殺すつもりで一戦交えに来たんです。」



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